夏の水辺などで、蚊の群れが局所的に飛び交っているのを目撃することがある。それは「蚊柱」と呼ばれ、遠くからだと文字通り、柱のように見える。
物価とは、この蚊柱のようなものだ(この蚊柱の比喩は、岩井克人『ヴェニスの商人の資本論』に拠る)。世の中の商品は、蚊柱における一匹一匹の蚊に相当する。すごい速さで移動する蚊もいれば、ゆっくりと移動する蚊もいるが、蚊柱全体としてはまとまっている。商品も、個々の商品の動きが多少揺らいでも、全体的に1カ所にとどまっていれば、それは物価が安定しているということである。
もし全体が急速度で移動していたら、インフレ(物価上昇)やデフレ(物価下落)に陥っているということだ。また、個々の価格がまったく動かない場合も問題である。1ミリも動かない蚊が、安定しているのではなく死んでいるように、売り手や買い手の事情による価格変動のような経済の健全な動きが止まっていたら、そこには問題が起きている。
ひとつひとつの価格の変動が、そのまま物価の変動につながるわけではない。
ある商品の価格が大幅に上昇したり下落したりしても、それは一過性のもので、揺り戻しがくる。また、商品同士の連動性も低い。ゆえに物価変動の原動力は、個別商品の魅力にあるわけではない。
物価変動の原動力が「個別商品の魅力」にはないならば、他に考えられるのは「貨幣の魅力」である。なぜ貨幣に魅力があるのか。
まず考えられるのが、貨幣は商品を購入する際の「支払い手段」、つまり決済サービスという見方だ。決済サービスを通じ、わたしたちはさまざまなモノやサービスにアクセスできる。
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