イノベーションに成功した企業が大企業に成長する。しかし、そのビジネスモデルの成長は必ず停滞するときがくる。大企業は新たなイノベーターに地位を追われる運命にあるのだろうか。著者らは、そうしたとき、新たなビジネスモデルを探る
「戦略的イノベーション」こそが、大企業にとって選ぶべき選択肢であると述べる。
戦略的イノベーションは、「ビジネスを定義する三つの根本的要素――顧客は誰か、彼らにどんな価値を提供するのか、それをどうやってもたらすのか――の少なくとも一つに取り組む、新たな試みでなければならない」という。
また、戦略的イノベーションとは、継続的な事業プロセスの改善や、製品やサービスのイノベーションとは性質が異なる。費用規模も大きく、所要時間も長く、結果もどうなるか見えない。難しく複雑で、たいへん危険な経営的試練であるが、企業の長期的な存続は、戦略的イノベーションにかかっているといっても言い過ぎではない。
本書では、戦略的イノベーションにつながる新規実験事業を「ニューコ(NewCo)」、それにもっとも緊密に関係する既存の事業部門を「コアコ(CoreCo)」と呼んでおり、本要約でもそれを踏襲することとする。
ニューコは独立した事業部門であることが望ましく、事業計画から収益の段階に至るまでは、相反する創造性と規律正しい実行との両方が必要になる。加えて、同じ会社に新旧の事業が共存するという事態は、独特の課題を生む。それらは、「忘却」、「借用」、「学習」の三つである。
ニューコは、既存事業であるコアコがそうあることを選んで成功した、人事評価の方法や、組織文化、既成概念などを「忘却」して事に当たる必要がある。また、コアコの持てる、既存の顧客や流通網などの資産を「借用」することは、ニューコがベンチャーに対して優位な点である。さらに、ニューコは、不確実な新興市場で成功するために、事業成果の予測精度を上げるという「学習」をしなければいけない。
これらの課題をクリアするために、ニューコが自らの組織的DNA――つまり、スタッフや、組織構造、システム、組織文化――を活用できるよう、DNAに価値観や意思決定の方向性などを組み込むことが必要である。
忘却の課題について、コーニングという特殊ガラス製品やセラミックス製品をつくる会社の事例に沿って考えてみよう。コーニングは、特殊ガラス製品の製品開発技術を活かして、DNAマイクロアレイの製造に乗り出すことにした。DNAマイクロアレイとは、バイオテクノロジーの研究が進むにつれて需要が高まった研究資材のひとつで、長方形のガラス製スライドに、数百ものDNAサンプルが塗りつけてある。
そのために立ち上げられたコーニングの新規事業が、コーニング・マイクロアレイ・テクノロジーズ(CMT)である。が、CMTは、社の幹部がコーニングの組織的DNAをそのまま移植したために、忘却の課題に苦しむことになった。
忘却の課題と、それがニューコに与える意味合いを理解するためには、ニューコのビジネスモデルや持つべき能力がコアコのそれとどう違うのか、ビジネスモデルの不確実性はどの程度なのか、という視点が欠かせない。
CMTにとって最も難しかった課題は、
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