ストラテジック・イノベーションの表紙

ストラテジック・イノベーション

戦略的イノベーターに捧げる10の提言


本書の要点

  • イノベーションを成功させるにあたって、ニューコ(新規事業)は三つの課題に直面する。コアコ(既存事業)とのあいだでは、既存のやり方を「忘却」し、既存の資産を活用する「借用」の課題をクリアせねばならない。また、事業成果の予測精度を高めるための「学習」をしなければならない。

  • ニューコは、課題をクリアするために、自らの組織的DNAを利用しなければならない。言い換えれば、課題をクリアできるような価値観や方向性を組み込んで、組織的DNAをつくっていく必要がある。

1 / 4

【必読ポイント!】戦略的イノベーションとは何か

大企業が生き残るためのイノベーション

robuart/iStock/Thinkstock

イノベーションに成功した企業が大企業に成長する。しかし、そのビジネスモデルの成長は必ず停滞するときがくる。大企業は新たなイノベーターに地位を追われる運命にあるのだろうか。著者らは、そうしたとき、新たなビジネスモデルを探る「戦略的イノベーション」こそが、大企業にとって選ぶべき選択肢であると述べる。戦略的イノベーションは、「ビジネスを定義する三つの根本的要素――顧客は誰か、彼らにどんな価値を提供するのか、それをどうやってもたらすのか――の少なくとも一つに取り組む、新たな試みでなければならない」という。また、戦略的イノベーションとは、継続的な事業プロセスの改善や、製品やサービスのイノベーションとは性質が異なる。費用規模も大きく、所要時間も長く、結果もどうなるか見えない。難しく複雑で、たいへん危険な経営的試練であるが、企業の長期的な存続は、戦略的イノベーションにかかっているといっても言い過ぎではない。本書では、戦略的イノベーションにつながる新規実験事業を「ニューコ(NewCo)」、それにもっとも緊密に関係する既存の事業部門を「コアコ(CoreCo)」と呼んでおり、本要約でもそれを踏襲することとする。

戦略的イノベーションの成功のために

ニューコは独立した事業部門であることが望ましく、事業計画から収益の段階に至るまでは、相反する創造性と規律正しい実行との両方が必要になる。加えて、同じ会社に新旧の事業が共存するという事態は、独特の課題を生む。それらは、「忘却」、「借用」、「学習」の三つである。ニューコは、既存事業であるコアコがそうあることを選んで成功した、人事評価の方法や、組織文化、既成概念などを「忘却」して事に当たる必要がある。また、コアコの持てる、既存の顧客や流通網などの資産を「借用」することは、ニューコがベンチャーに対して優位な点である。さらに、ニューコは、不確実な新興市場で成功するために、事業成果の予測精度を上げるという「学習」をしなければいけない。これらの課題をクリアするために、ニューコが自らの組織的DNA――つまり、スタッフや、組織構造、システム、組織文化――を活用できるよう、DNAに価値観や意思決定の方向性などを組み込むことが必要である。

2 / 4

忘却

コーニング・マイクロアレイ・テクノロジーズの忘却の課題

EtiAmmos/iStock/Thinkstock

忘却の課題について、コーニングという特殊ガラス製品やセラミックス製品をつくる会社の事例に沿って考えてみよう。コーニングは、特殊ガラス製品の製品開発技術を活かして、DNAマイクロアレイの製造に乗り出すことにした。DNAマイクロアレイとは、バイオテクノロジーの研究が進むにつれて需要が高まった研究資材のひとつで、長方形のガラス製スライドに、数百ものDNAサンプルが塗りつけてある。そのために立ち上げられたコーニングの新規事業が、コーニング・マイクロアレイ・テクノロジーズ(CMT)である。が、CMTは、社の幹部がコーニングの組織的DNAをそのまま移植したために、忘却の課題に苦しむことになった。忘却の課題と、それがニューコに与える意味合いを理解するためには、ニューコのビジネスモデルや持つべき能力がコアコのそれとどう違うのか、ビジネスモデルの不確実性はどの程度なのか、という視点が欠かせない。CMTにとって最も難しかった課題は、

もっと見る
この続きを見るには...
残り3185/4602文字

4,000冊以上の要約が楽しめる

要約公開日 2014.12.03
Copyright © 2025 Flier Inc. All rights reserved.

一緒に読まれている要約

ワイドレンズ
ワイドレンズ
ロン・アドナー清水勝彦(監訳)
世界トップ3の経営思想家による はじめる戦略
世界トップ3の経営思想家による はじめる戦略
花塚恵(訳)ビジャイ・ゴビンダラジャンクリス・トリンブル
マッキンゼー成熟期の成長戦略
マッキンゼー成熟期の成長戦略
大前研一
コンテキストの時代
コンテキストの時代
ロバート・スコーブルシェル・イスラエル滑川海彦高橋信夫(訳)
経営戦略の経済学
経営戦略の経済学
淺羽茂
スマートマシンがやってくる
スマートマシンがやってくる
ジョン・E・ケリー3世スティーブ・ハム三木俊哉(訳)
大いなる探求
大いなる探求
シルヴィア・ナサー徳川家広(訳)
中村修二劇場
中村修二劇場
日経BP社特別編集班

同じカテゴリーの要約

【新】100円のコーラを1000円で売る方法
【新】100円のコーラを1000円で売る方法
永井孝尚
起業の天才!
起業の天才!
大西康之
経営者のための正しい多角化論
経営者のための正しい多角化論
松岡真宏
15秒!集客革命
15秒!集客革命
仲野直紀
ユニクロ
ユニクロ
杉本貴司
心理的安全性のつくりかた
心理的安全性のつくりかた
石井遼介
ローソン
ローソン
小川孔輔
ジョブ型人事の道しるべ
ジョブ型人事の道しるべ
藤井薫
組織と働き方の本質
組織と働き方の本質
小笹芳央
地頭力を鍛える
地頭力を鍛える
細谷功