企業戦略とは、企業の事業定義と複数事業間の資源配分に対しトップレベルで策定される戦略のことだ。企業戦略を語る上で近年注目されているのが「選択と集中」そして「多角化」というキーワードである。
興味深い事例として、選択と集中を進める旭化成工業と、多角化を進める日本たばこ産業(JT)が紹介されている。かつては「ダボハゼ経営」と言われる多角化経営だった旭化成は、採算性の低い食品事業をJTに売却するなど事業のスリム化を実施した。専業割合が増加する傾向は、旭化成に限らず全製造業で見られるものだ。
一方、専業割合が低下している業界は飲料・たばこ事業と石油・石炭製品製造業である。その一つであるJTは、専業であるたばこ事業の伸び悩みから豊富な余剰資金をバックに食品や医療品といった経験値の浅い分野を積極的に買収した。多角化を行うことはその専門事業者と競争することを意味しリスクも大きい。多角化戦略を成功させるためには他専業企業との競争に勝ち抜くだけの根拠や経済的メリットがないと成立しない。
JTのように、時代の流れに逆らうとも思える多角化を行うメリットとは何だろうか。その一つは、収益時期が異なる事業を組み合わせてリスク分散・安定収益が可能となる点にある。経済学には「範囲の経済」、つまり複数の事業者がそれぞれ単品を製造するよりも一事業者が複数製品を製造する方がコスト安になる、という理論がある。範囲の経済の根拠は「複数事業間で共有できる準公共財的な投入物」、つまり生産能力や本社機能という資源の共有である。JTのような強いブランド力は自社の資源と考えることができ、ブランドマーケティングによって新事業での経験値をカバー(共有)することが可能となる。
また、経営学においては相乗効果を意味する「シナジー効果」という概念で説明することができる。
多角化経営には様々なタイプがあるが、組み合わせ方によって収益性と成長性に違いがあることが分かった。また、企業の財務データの調査から一定基準を上回った企業の78%が単一のコア事業を有することが分かった。企業の成長に必要不可欠な多角化で成功するためには、収益性と成長性のトレード・オフ関係を考慮し最適な多角化を決定すること、自社のコア・コンピタンスを共有する事業を創出することが重要だ。
垂直的段階で事業を策定する際、生産から販売、サービスまでの一連業務のうち自社で行う部分(make)と他社に委託する部分(buy)をどう決定するかが事業戦略の重要なポイントの一つだ。
このテーマに関する近年話題の事例として、電子機器の製造受託を行うEMS(Electronic Manufacturing Service)がある。日本企業が海外のEMSに自社工場を売却する等動きが活発化しているのだ。資産の特定性がモジュール化によって低下し、市場取引が選好されるようになったことが、ここ数年のEMS成長の背景にある。また、特に1990年代以降、アウトソーシングが垂直的段階の様々な業務で活用されたが、一方で垂直統合と呼ばれる社内一括生産を重要視する動きもあり、いずれも重要な企業戦略である。
垂直的段階における分化のメリットは
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