平均的に、MBAで経営学を修めた人たちには市場価値が認められているのは、MBA修了生たちの平均年俸から見ても明らかだ。にもかかわらず、「経営学は役に立たない」と批判するビジネスの実務家が後を絶たない。その理由は、実務家が経営を実践する中で育んだ経験則である経営持論の方が、すぐに役に立つものとして幅を利かせているためである。
経営学は、モデルの構築→モデルの確認→モデルの細分化というプロセスを経て、一般化を志向する論理である。抽象的かつ「現実の個々の事例にただちに当てはまるとは限らない」という性質ゆえに、役に立たないと評価されがちである。
一方、経営持論は、その論理が培われたときの特殊な環境や経営資源が前提であるが、組織の置かれている局面が変わらない限り、その局面にフィットした特殊解を提供してくれる。しかし、新規事業に参入するなどの「新しい局面」において、これまでの特殊な環境や経営資源にフィットしていた経営持論に固執してしまうと、誤った解決策を導くなどの弊害を引き起こす恐れがある。
新しい局面で役に立つのは、経営学である。経営学の論理は、経営持論と比べて細分化されているため、新しい局面で論理を一から組み立てる必要があるときには、他の論理と組み合わせて臨機応変に特殊解をつくり、実践の足がかりとなる仮説を提供してくれるからだ。
また、経営学が役に立つ最大の理由は、「アンラーニング」を促進してくれる点である。アンラーニングとは、これまでの成功体験などから生まれた経営持論を冷静に客観視し、それにこだわらない状態を作ることである。経営学の論理が、固執しがちな経営持論への対抗馬的な仮説となり、他の仮説にも目を向けさせてくれる。
さらには、さまざまな経営学の論理を、いつでも使える武器として用意しておくことで、柔軟な思考が可能になり、新しい局面での問題解決にふさわしい論理を考え抜ける力(思考持久力)を高められる。
経営学の論理をすぐに使えるようにするには、アンラーニングの型と、それに対応する形で経営学の論理を整理しておくことが有効である。その4つの型である「役割」「選択肢」「条件」「関係性」と具体例を見ていきたい。
「役割のアンラーニング」とは、ある手段が可能にする目的を特定のものに固執せず、他の可能性も考えることである。手段が果たす役割を見落として、誤った意思決定をするのを避ける効果が期待できる。
具体例としてはまず、「吸収能力(組織の外部にある知識の価値を認識し、活用できるよう取り入れる能力)」という経営学の論理を考えてみたい。
現在、日本企業の研究開発費が減少の一途をたどっている。特許やノウハウ、論文などの新たな知識という成果が生まれていなければ、研究開発部門は不要または縮小していけばいいと考えられているためである。果たしてその考え方は正しいのだろうか?
「吸収能力の向上」という視点に立つと、この考え方は正しいとは言えない。
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