2013年、日本の貿易赤字は約11.5兆円にのぼったが、この主因はLNGスポット輸入である、とされている。2011年3月11日に起きた東日本大震災により、全国の原子力発電所は運転停止に追い込まれ、その代替燃料として電力会社はLNGを購入しているのだが、このLNGの輸入価格が他の国が買っているものより高いのである。それは何故か? その答えを得るためには、日本のLNG輸入の歴史を見る必要がある。
日本のLNG購入量は1969年より急増したが、その主な理由は公害対策であった。当時、光化学スモッグによる大気汚染や水俣病、イタイイタイ病、といった公害病が大きな社会問題となっており、公害対策として人体に直接の悪影響をもたらす硫黄分および窒素分の排出量増加をいかに抑えるか、という点に焦点が絞られた。液化天然ガスであるLNGは、原油よりも硫黄分、窒素分が少なく、公害対策の救世主として輸入が必然的に増えていったのであった。そして、LNGは原油の代替燃料であったため、価格は原油価格にリンクすることとなった。
もともとガス市場は、アメリカを中心とする北米圏、ヨーロッパ諸国を中心とする欧州・ロシア・北アフリカ圏、日本を中心とするアジア・オセアニア圏の3つの地域がほぼ独立して存在していた。従って、地域間の価格関連性は低く、日本向けが原油価格にリンクし、欧州は重油や軽油価格にリンクし、アメリカは純粋に国内需給要因によって価格が決まる仕組みとなったのである。
2005年くらいまでは各地域の価格はそれなりの類似性をもった動きをしていたが、その後原油価格の高騰により、日本向け価格が独歩高となっている。また、日本の電力会社は、公益企業として「絶対に停電を発生させてはいけない」という使命を帯びている。従って、LNGの安定供給は絶対条件であり、LNGを産出する設備は設計段階から安全係数を高くとり、少々のことでは生産量がぶれないように建設されている。
一方トリニダード・トバゴ等のLNGは安定供給の義務がなく、生産された分だけ売るというコンセプトで作られているため、安全係数はほぼゼロであり、よって建設およびオペレーションコストを下げ、安いLNG供給が可能となっている。以上の2点より、日本向けLNG価格は他の地域と比べて高いのである。
新聞などの報道で見かけるEIA(U.S. Energy Information Administration)発表のデータは、実は「資源量」であり、「埋蔵量」ではない。それらの違いとは何なのだろうか?
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