2011年の東日本大震災を経て、「エネルギー源の多様化とベストミックス」によりエネルギー・リスクを分散し、安定的かつ低廉なエネルギー源を確保できるような、電力共有基盤を再構築することは必要不可欠であると著者は言う。再生可能エネルギーによる発電量を増やす、という点では短期的には現在国内で主流となっている太陽光が現実的だ。しかし、中期的には大規模な洋上風力発電所の建設に着手すべきである。もし日本周辺に5〜7MW機を100基近く設置可能な、約1km四方の海域が見つかれば、中型原発1基分とほぼ同じくらいの発電量が見込める。
洋上風力発電の原理・構造は極めてシンプルだ。支柱に支えられた羽根が風を受けて回転し、その回転が発電機を回して発電する。そこで発電された電力は、海底に敷設された電力ケーブルを伝い、地上の電力系統の接続点に送電され、電力として使用される。その運転状況は陸にある管理室で管理される。風車の構造は洋上風力発電と陸上風力発電に違いはないが、海から下の土台となる基礎部分の構造が大きく異なる。世界中で広く実用化されている「着床式」という海底に基礎部分を固定する方式に加え、釣りに使う「浮き」の原理を利用した「浮体式」も存在するなど、様々な方法が現在考案されている。
洋上風力発電のメリットは、①人間がコントロールできる単純な原理である:安全性が高い、②大規模・集中電源として「規模の経済性」を追求できる:生産量が増えるほど、コストが下がる、③景観を損なわない、④陸上に比べて設備利用率が高い、の4点だ。なおデメリットは著者曰く「海上で工事・維持修理を行うため、天候が悪い日が続くと工事日数が延びることくらいしか思いつかない」そうだ。
技術開発動向においては、現在日本の風車メーカーは欧米に遥かに後れを取っている。2011年3月、デンマークのベスタス社が世界最大級の最新鋭機(7MW)を発表し、6MW級の風力発電機を持つのはドイツが3社、デンマーク2社、フランス1社、中国1社となっている。それに対して、日本では三菱重工が持つ2.4MWが最大級となっている。
日本は、まだ欧州や中国にキャッチアップできる位置にいるものの、何もアクションをしなければキャッチアップすることは絶望的になるだろう。なお、洋上風力発電の固有な技術開発課題は、①風車の大型化(羽根の軽量化・低騒音化・長大化、構造強化)、②塩害による回転機械や電子機器の故障防止(材料の高強度化、長寿命化)、③波や海潮流などの外力に抗することができる構造物の開発、という3点が挙げられる。さらに、設置場所の選択肢を広げるために、水深が深い海域で使用する浮体式の開発が世界的に進められている。
2011年末における世界の風力発電の総設備容量は、約2億3800万kWであり、国別では1位中国(26.2%)、2位米国(19.7%)、3位ドイツ(12.2%)と続き、日本は1.0%に留まっている。日本にいると気づかないが、風力発電の導入が大きな世界的潮流となっている。
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