洋上風力発電

次世代エネルギーの切り札
未読
洋上風力発電
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次世代エネルギーの切り札
未読
洋上風力発電
出版社
日刊工業新聞社
出版日
2012年12月19日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書は現在世界的に注目を集める自然エネルギーである「洋上風力発電」について、網羅的・具体的に論述したものである。京都大学にて宇宙工学分野で研究をした後、経済産業省(当時の通産省)に入省し、内閣官房総合海洋政策本部で海洋資源エネルギーから洋上風力発電まで、広くエネルギー問題に取り組んできた著者が、具体的な数字と自らの視察・調査経験をふまえて記載しており、その客観的な文章は非常にわかりやすい。

4つの章ではそれぞれ、洋上風力発電が注目される背景、海外と日本の現状、導入に向けての課題と解決策、導入シナリオと提言がまとめられている。導入では太陽光発電よりもはるかに安い発電コストから再生可能エネルギーの世界的な主流となっている風力発電について、陸上・洋上の違いやメリットが他の再生可能エネルギーとの比較の中で説明されていることで、読み手の興味を引く。そこから海外の成功事例や失敗事例、日本で普及していない理由など、こちらが知りたいと思うことが次々と紹介されていく。そして最後には、地域住民との対話も含めた導入に必要なアプローチについてまとめられている。

ほぼすべてのページに具体的な数字と客観的な分析が書かれていながら、難解な言葉もなくスラスラと読める形にまとめられていることから、著者の風力発電に対する深い洞察を伺える。太陽光発電に比べ、風力発電の認知度が低い日本において、再生可能エネルギーに興味を持つ人すべてに読んでもらいたいと思う一冊だ。

著者

岩本 晃一
1958年生まれ、香川県出身。京都大学卒、京都大学大学院工学研究科修了後、通産省入省。内閣官房都市再生本部事務局内閣参事官、産業技術総合研究所つくばセンター次長、内閣官房総合海洋政策本部事務局内閣参事官などを経て、現在、経産省地域経済産業グループ産業政策分析官。(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

本書の要点

  • 要点
    1
    洋上風力発電所は原発の代替電源として大量の発電が可能でありながら高い安全性を持ち、太陽光発電よりも発電原価が安く、陸上風力発電のような低周波騒音の問題を発生しない。
  • 要点
    2
    欧州ではすでに1500基以上の洋上風車が回り、よく見慣れた光景になっているのに対し、日本では近年「新成長戦略」および「日本再生戦略」に方針が盛り込まれ、ようやく本格的な導入の準備に入った。
  • 要点
    3
    洋上風力発電では、利用可能な海域を調整できれば課題の大半を解決できる。
  • 要点
    4
    現在日本では、6つの洋上風力発電所の建設計画が進行している。

要約

いまなぜ洋上風力発電なのか

洋上風力発電がこれまで日本で導入されなかったのは、他の電源で十分だったから
Nastco/iStock/Thinkstock

2011年の東日本大震災を経て、「エネルギー源の多様化とベストミックス」によりエネルギー・リスクを分散し、安定的かつ低廉なエネルギー源を確保できるような、電力共有基盤を再構築することは必要不可欠であると著者は言う。再生可能エネルギーによる発電量を増やす、という点では短期的には現在国内で主流となっている太陽光が現実的だ。しかし、中期的には大規模な洋上風力発電所の建設に着手すべきである。もし日本周辺に5〜7MW機を100基近く設置可能な、約1km四方の海域が見つかれば、中型原発1基分とほぼ同じくらいの発電量が見込める。

洋上風力発電の原理・構造は極めてシンプルだ。支柱に支えられた羽根が風を受けて回転し、その回転が発電機を回して発電する。そこで発電された電力は、海底に敷設された電力ケーブルを伝い、地上の電力系統の接続点に送電され、電力として使用される。その運転状況は陸にある管理室で管理される。風車の構造は洋上風力発電と陸上風力発電に違いはないが、海から下の土台となる基礎部分の構造が大きく異なる。世界中で広く実用化されている「着床式」という海底に基礎部分を固定する方式に加え、釣りに使う「浮き」の原理を利用した「浮体式」も存在するなど、様々な方法が現在考案されている。

洋上風力発電のメリットは、①人間がコントロールできる単純な原理である:安全性が高い、②大規模・集中電源として「規模の経済性」を追求できる:生産量が増えるほど、コストが下がる、③景観を損なわない、④陸上に比べて設備利用率が高い、の4点だ。なおデメリットは著者曰く「海上で工事・維持修理を行うため、天候が悪い日が続くと工事日数が延びることくらいしか思いつかない」そうだ。

技術開発動向においては、現在日本の風車メーカーは欧米に遥かに後れを取っている。2011年3月、デンマークのベスタス社が世界最大級の最新鋭機(7MW)を発表し、6MW級の風力発電機を持つのはドイツが3社、デンマーク2社、フランス1社、中国1社となっている。それに対して、日本では三菱重工が持つ2.4MWが最大級となっている。

日本は、まだ欧州や中国にキャッチアップできる位置にいるものの、何もアクションをしなければキャッチアップすることは絶望的になるだろう。なお、洋上風力発電の固有な技術開発課題は、①風車の大型化(羽根の軽量化・低騒音化・長大化、構造強化)、②塩害による回転機械や電子機器の故障防止(材料の高強度化、長寿命化)、③波や海潮流などの外力に抗することができる構造物の開発、という3点が挙げられる。さらに、設置場所の選択肢を広げるために、水深が深い海域で使用する浮体式の開発が世界的に進められている。

先行する欧米中、追随する日本

世界中で進行する洋上風力発電競争
RobinOlimb/iStock/Thinkstock

2011年末における世界の風力発電の総設備容量は、約2億3800万kWであり、国別では1位中国(26.2%)、2位米国(19.7%)、3位ドイツ(12.2%)と続き、日本は1.0%に留まっている。日本にいると気づかないが、風力発電の導入が大きな世界的潮流となっている。

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要約公開日 2014.10.28
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