古代ギリシャ時代から西暦1900年までの2400年間、平均寿命の延びを抑えていた主要要因は伝染病だった。しかし、公衆衛生プログラムの普及、ワクチンの考案、ペニシリンの発明により、伝染病は20世紀の終わりにはほぼ克服された。
さらに、外科技術と、がん治療の進歩により、高齢者が昔なら不治の病といわれるような病気にかかっても、生き長らえるようになった。
しかし、ほとんど例外なく、高齢者は別の病気を併発する。そのために、医療費がかさむことになる。
子どもが家で病気の親の面倒をみるというライフスタイルも崩壊しつつあるので、多くの高齢者は老人ホームやヘルパーの世話になる。彼らが治療のために蓄えを使い果したら、地方自治体か国家機関が負担する老人医療保障を頼ることになり、国庫にたいへんな負担がかかることになる。
高齢化は世界の先進国で起こっており、たとえばアメリカでは、高齢者、すなわち有権者が多いフロリダ州は大統領選に大きな影響力を持つようになった。日本は、高齢者の比率が高い上に、出生率が先進国のなかで最低レベルとあって、長期に渡る人口減少を経験しようとしている。中国は高齢者人口の爆発的な増加を経験しつつある。
老齢人口がここまで大きく膨らみ、コストが増大することは、先進国の国々にとっては想定外のできごとだった。いまや、高齢化に伴う財政支出は急激に増えつつあり、財源の確保が追いついていない。アメリカでは社会保障と老人医療保険のシステムの変更が急がれるが、妙案はないのが実情だ。税金を負担する勤労者は高齢化に伴い減っていき、一人当たりの負担は増える一方となる。
この財政支出に対する対策が、老化に対抗するための医療技術の研究だ。若く健康な状態を長く保てれば、多くの高齢者を労働力に組み込むことができる、と著者は述べる。アメリカでは、国から援助を受けて、この研究に20年間にわたり5000億ドルもの金額がつぎ込まれてきた。民間の研究費を加えれば金額は一兆ドルを超えるという。これらの投資が実を結びつつある。
高齢化の問題は、老人だけの問題ではなく、若年労働者にも税金を負担して扶養するという形で影響が及ぶ。先に述べたように、もし老化による体の損傷が回復され、勤務年限を伸ばすことができれば、財政負担は大幅に軽減できる。アメリカで社会保障の給付対象が66歳から71歳まで延期されれば、年間1800億ドルを浮かすことができる。さらに年配労働者となれば所得税などを徴収できるため、国庫歳入が増えるのだ。
しかしそもそも老化の原因とはなにか。原因とみられているものは、いくつもある。
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