平均寿命105歳の世界がやってくる

喜ぶべきか、憂うべきか
未読
平均寿命105歳の世界がやってくる
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喜ぶべきか、憂うべきか
未読
平均寿命105歳の世界がやってくる
出版社
柏書房
出版日
2014年08月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

毎年の健康診断やメタボ健診の結果をどう活かすかといった身近な健康管理の問題は、今のあなたにだけでなく、高齢化社会を生きる将来のあなたに、大きな意味を持ってくることなのだ。本書を読むと、それが身にしみて感じられるだろう。

本書は、アメリカ社会に注目し、延びつづける寿命が社会的にどのようなインパクトを与えるのか、そのためにどのような対策がとれるのか、ということが議論されている。

老化を遅らせるための研究や、とくに注目されている再生医療についての解説には、「こんな可能性もあるのか」と驚かされるばかりだ。さらに、高齢化する社会を、人口動態や社会保障の国庫負担、年配労働者の活用や雇用文化といったマクロ経済的な視点から考察し、今後どのような舵取りがされるべきかということが語られている。また、著者はこれら2つにまたがる論点である、研究費の投資についても言及する。本書に登場するNIH(アメリカ国立衛生研究所)NSF(アメリカ科学財団)の役割は、日本では文科省、厚労省、農水省、科学技術振興機構、日本学術振興会などが担っており、さまざまな研究費予算の配分が行われている。日本のケースにあてはめて考えるとよいだろう。

本書は、先進国すべてが悩んでいる高齢化の課題に対して、医学と社会学の両面から深く切り込んだ内容となっている。高齢化やアンチエイジングの本だけを読んでいても、再生医療の本を読んでいても見当たらない珍しい論点が挙げられており、目が開ける読書体験であった。

著者

アレックス・ザヴォロンコフ
1979年2月生まれ。国籍は、ラトヴィア、ロシア、カナダ。カナダのクイーンズ大学、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学、ロシアのモスクワ大学で学ぶ。老齢化研究のシンクタンク「生物老年学(バイオジェロントロジー)研究財団」を主宰し、国際エイジング研究ポートフォリオを立ち上げ、世界中の老齢研究を支援している。再生医療世界連合にも加担し、長寿研究の中心で活躍を続けている。

本書の要点

  • 要点
    1
    先進国の、高齢化に伴う財政支出の継続的な増加は、社会保障や医療保険などの国家体制の成立を危うくしている。健康で長生きできれば、多くの高齢者が労働力に組み込まれるので、抗老化研究こそ、この問題を解決できるはずだ。
  • 要点
    2
    なかでも、再生医療が、抗老化の切り札として期待されている。アメリカは、そうした研究に資金が行きわたるよう、資金振り分けの優先順位を変革すべきだ。
  • 要点
    3
    将来的に高齢者は長く働くことを受け入れる必要がある。個人は、老後に備えて資産を蓄え、何より健康を大事にすべきだ。

要約

長寿の時代

飛躍的に延びた先進国の平均寿命
Osuleo/iSrock/Thinkstock

古代ギリシャ時代から西暦1900年までの2400年間、平均寿命の延びを抑えていた主要要因は伝染病だった。しかし、公衆衛生プログラムの普及、ワクチンの考案、ペニシリンの発明により、伝染病は20世紀の終わりにはほぼ克服された。

さらに、外科技術と、がん治療の進歩により、高齢者が昔なら不治の病といわれるような病気にかかっても、生き長らえるようになった。

しかし、ほとんど例外なく、高齢者は別の病気を併発する。そのために、医療費がかさむことになる。

子どもが家で病気の親の面倒をみるというライフスタイルも崩壊しつつあるので、多くの高齢者は老人ホームやヘルパーの世話になる。彼らが治療のために蓄えを使い果したら、地方自治体か国家機関が負担する老人医療保障を頼ることになり、国庫にたいへんな負担がかかることになる。

高齢化への対策
danefromspain/iStock/Thinkstock

高齢化は世界の先進国で起こっており、たとえばアメリカでは、高齢者、すなわち有権者が多いフロリダ州は大統領選に大きな影響力を持つようになった。日本は、高齢者の比率が高い上に、出生率が先進国のなかで最低レベルとあって、長期に渡る人口減少を経験しようとしている。中国は高齢者人口の爆発的な増加を経験しつつある。

老齢人口がここまで大きく膨らみ、コストが増大することは、先進国の国々にとっては想定外のできごとだった。いまや、高齢化に伴う財政支出は急激に増えつつあり、財源の確保が追いついていない。アメリカでは社会保障と老人医療保険のシステムの変更が急がれるが、妙案はないのが実情だ。税金を負担する勤労者は高齢化に伴い減っていき、一人当たりの負担は増える一方となる。

この財政支出に対する対策が、老化に対抗するための医療技術の研究だ。若く健康な状態を長く保てれば、多くの高齢者を労働力に組み込むことができる、と著者は述べる。アメリカでは、国から援助を受けて、この研究に20年間にわたり5000億ドルもの金額がつぎ込まれてきた。民間の研究費を加えれば金額は一兆ドルを超えるという。これらの投資が実を結びつつある。

老化を遅らせる、止める、はたまた若返らせる?!

老化の原因究明と、損傷を修復するアプローチ
shironosov/iStock/Thinkstock

高齢化の問題は、老人だけの問題ではなく、若年労働者にも税金を負担して扶養するという形で影響が及ぶ。先に述べたように、もし老化による体の損傷が回復され、勤務年限を伸ばすことができれば、財政負担は大幅に軽減できる。アメリカで社会保障の給付対象が66歳から71歳まで延期されれば、年間1800億ドルを浮かすことができる。さらに年配労働者となれば所得税などを徴収できるため、国庫歳入が増えるのだ。

しかしそもそも老化の原因とはなにか。原因とみられているものは、いくつもある。

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要約公開日 2014.10.31
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