本書は2部構成になっており、第Ⅰ部は「宇宙科学の最先端をのぞく」として、宇宙科学の研究者と立花氏による2つの対談から、最先端の宇宙科学の知見を紹介している。第Ⅱ部は、子どもたちが第Ⅰ部の対談で話されているような内容を勉強し、理解し、立花氏と議論するレベルにまで成長を遂げ、「正しく思考する技術」を獲得していった授業について書いている。
1つめの対談の相手は、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻教授で、国立天文台の太陽系外惑星プロジェクト室室長の田村元秀氏。田村氏は1988年、アメリカのアリゾナ州にクウィンラン山頂にある米国立キットピーク天文台で、当時、世界でも数少ない赤外線カメラを使って、二次元撮像観測を行なった。可視光で銀河の中心付近を観測すると、チリの影響で何も見えない。しかし、赤外線カメラをのぞいたら、銀河中心に星がたくさん集まっている様子がいきなり画面に映った、と田村氏は言う。二次元化することによって、確認できる天体数が増えるだけでなく、細かい構造がわかるようになった。さらに、これまでは粗い像しか得られなかったのが、補償光学が発達し、シャープな画像が得られるようになった。
ここ数年の天文関連で最も大きな話題と言えば、宇宙望遠鏡「ケプラー」による系外惑星(太陽系の外にある惑星)の発見だ。姿勢制御装置の故障から2013年8月に観測が中止されたが、ケプラーのデータからはたくさんの系外惑星が確認され、その中には地球によく似た惑星もいくつか含まれている。ケプラーによって発見され、すでに天体であることが確認されたものと、ケプラー以前に確認されていたものを合わせると現在までに約1700もの系外惑星が確認されているという。
多くの系外惑星を観測する中で、太陽系の姿とは異なる惑星がどんどん見つかっているという田村氏は「太陽系は宇宙の中では標準形ではない、太陽系は特殊でもおかしくない」と考えるようになった。ケプラーが発見した系外惑星の姿が明らかになるほど、太陽系が最終的に現在のような配置になったことに必然性が見出だせないのだという。「ケプラーのデータからすると、現在の太陽系形成理論はどこか間違っているというふうに思われます」。教科書を見直さなければならないところまできていて、理論の先生は非常に困っているそうだ。
学生は、教科書に書いてあることは正しいと思って読む。しかし、サイエンスの教科書は、確立されたことと、これから変わることの両方が載っているものであり、特に系外惑星はまだ研究が始まったばかりで確立されたものではない。だからこそ面白い、と話す田村氏は、今後、大学に系外惑星の研究室をつくりたいと考えている。「まだ系外惑星天文学を謳っている研究室というのはありません。けれど、そうした枠組みをつくっていかなければ、せっかく若い人が系外惑星に興味を持ってくれても次世代につながっていきませんから」。
2つめの対談には、初代「はやぶさ」のイオンエンジンの開発を担当し、「はやぶさ2」ではプロジェクトマネージャーを務めるJAXAの國中均氏が登場する。
「はやぶさ」が長距離を飛行できたのは「イオンエンジン」の功績によるものだ。
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