多くの人は、「否定しないで受け入れることが大切」と頭ではわかっているのに、無意識のうちに相手を否定してしまう。なぜだろうか。
理由の一つは、「よかれと思って」という前提のもと、否定を正当化してしまうことだろう。著者は中学3年生のとき、「将来はF1カーの空力デザイナーになりたい」という夢を親に伝えたところ、困った顔で「もう少し、普通のやつ、ないのか?」と言われた。自分が大人になってみると、相手に悪意がないことはわかる。子どものために「よかれと思って」言ってくれたのだろう。だが、悪意がないからこそ厄介であるともいえる。
その後、留学先で出会った進学カウンセラーに夢を打ち明けたところ、カウンセラーは否定せず、「素晴らしい。どうしたらなれるか、一緒に考えよう」と言ってくれた。そう言われて初めて、夢を実現する方法をまったく考えていなかった自分に気づいたのだった。
将来の夢をめぐる2つの体験と、数多くの経営者やビジネスパーソンをコーチングしてきた経験から、気づいたことがある。それは、否定ばかりされると「怒りが生まれる」「オープンに話せなくなる」「信頼関係が生まれにくくなる」「自己肯定感が低下し、自信を持てなくなる」ということだ。逆に、自分の意見や考えを認めてもらえると、ポジティブな感情が生まれ、もっとコミュニケーションを取りたくなり、信頼関係が生まれて、自己肯定感と自信につながる。
そんなの当たり前だ、と思う人もいるだろう。それでも私たちは、無意識のうちに相手を否定してしまっているのだ。
否定とは「何を言っても『でも』『だって』と否定すること」に限らない。相手が話しているのをさえぎって話し出すことや、相手が意見を述べたときに「それもいいけどさ」と自分の意見を言ってしまうこと、別のことをしながら相手の話を聞くことも「否定」である。
相手を否定しないことでいい関係をつくれた事例を紹介しよう。あるベテランのワインソムリエが、お客様からこう言われた。「〇〇(ワインの銘柄)の赤ワインをいただけますか?」
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