上司がハラスメントぎりぎりのことばかり言ってくる。配偶者がいつも上から目線。取引先の人がマウントをとりたがる……。どれも我慢し続けるのはつらいシチュエーションだ。だが、関係上、きっぱりとした態度をとるのも難しい。自分さえ我慢すれば……と思ってしまいがちだ。
こんなときに参考になるのは、著者がかつて耳にした、京都出身の方の次のような言葉である。
京都人が相手に分からないように嫌みを言うのは、防衛手段なのだ。嫌みだと分かる相手には自省を促し、分からない相手は嘲笑の対象にすることで、自分の心を守れる。いざというときには「嫌みなんて言っていませんよ」と言い逃れができるよう、二重の意味にとれるような言い方をする――。
分かる相手にしか分からないように、エレガントに毒を吐く。これが京都風のやり方だ。そうして「関係を断ち切る」よりも「あいまいな形で塩漬けにしておく」ことを選べば、必要に応じて、何事もなかったように人間関係を復活させられる。
人間の脳には、相手と良好な関係を長続きさせるよりも、論破したり、打ち負かしたりすることに喜びを感じる性質がある。ヒエラルキー上位をキープしていると、遺伝子を多く残せる確率が高くなるからだ。
この欲求の強さには、男性ホルモンが影響しているといわれている。男性ホルモンの濃度の高い個体のほうが、上昇志向的な欲求が強いという傾向があるようだ。女性は女性同士の協力の重要度がより高いために、上昇志向があまり高すぎないほうがより生存適応的であるからだろうと考えられる。
現代においては、相手を負かして上に立つという戦略は必ずしも得にならない。集団内部に生じる小集団のぶつかり合いや他集団との行き来を考慮しなければならなくなったからだ。
そうなると、「相手に打ち勝つ能力」よりも「互恵関係を築ける能力」のほうがより大切になってくる。互恵関係を築ける能力とはつまり、むやみに論破するのではなく、言葉をうまく使って相手を懐柔できる能力だ。そこで役立つのが、エレガントに毒を吐く技術である。
ここからは、言いにくいことをエレガントに伝える具体的な方法として、京都市在住の方に聞いた「適切な言い回し」を紹介する。
たとえば、関係がそれほど深くない人から無理な依頼をされて断りたいというシチュエーション。おすすめの返し方は「いえ、うれしいですけどちょっと。もっと合っている方を探しましょうか」だ。
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