AI(人工知能)は、半世紀以上をかけて研究開発が進められてきた。その驚異的な成果が礼賛される一方で、仕事がなくなるのではないか、といった漠然とした不安を持っている人も少なくないだろう。
「比喩」でも「近未来の空想」でも「可能性の話」でもなく、仕事、働き方から組織、社会の成り立ちまで、人間の世界のすべてを変える存在としてAIは立ち現れている。
最近すごいスピードで広がっているAIは、「ジェネレーティブ」であるという点が特徴的だ。ジェネレーティブAIは、人間からのオーダーを受けると、学習済みの過去の膨大なデータを参照しながら、「テキスト」「画像」「動画」を生成する。これはあくまで「提案」であり、「正解の選択肢」ではない。だからこそ、「もっとこんなふうにしてほしい」と伝えれば、その提案を調整してくれるのだ。
すなわち、これからの人間の仕事は「着想すること」、そして提案を「より優れたアイディアに磨き上げていくこと」が主になり、着想を具現化する「実作業」はジェネレーティブAIが担っていく。この「ツール」は、ありとあらゆる作業を効率化し、できることを「拡張」してくれるのだ。
すでにプロとして質の高い仕事をしている人の能力、そしてすでに多くの人に求められるビジネスを展開してきた企業の機能が、ジェネレーティブAIによって一気に拡張される。当のAI開発自体は、マイクロソフトとグーグルの2社が握る形で、ベンチャーが生まれる可能性は低いだろう。ただし、AIを活用することで機能を拡張し、さらに競争力を高める企業は増えていくはずだ。
また、web3と融合し、これを加速する動きも注目されている。web3とは、GAFAMによる集権的なWeb2に対し、ブロックチェーン技術を基盤に分散化されていく潮流のことだ。特にジェネレーティブAIと相性がいいのは、プロジェクトごとでメンバー全員が対等な立場になるweb3コミュニティ、DAO(分散型自立組織)である。その「契約書」にあたる、取り決めの自動実行プログラム、「スマートコントラクト」や、会議運営などDAOのガバナンス自体をAIに任せる。その透明性の高さ、改ざん不能な情報管理を活かして、DAOの健全性を解析するのにも使える。
このようなAIについて著者は、「IA(Intelligence Augmentation=知能拡張)」でもなく、ネットワーク化された知性の「補強」すなわち「EI(Extended Intelligence=拡張知能)」を提唱する。これが、「今まで人間が手ずから行ってきた様々なことを肩代わりするツールの供給源」となっているのだ。
ジェネレーティブAIの進化と普及で、今後「人間の仕事、働き方、ビジネスモデル」はどうなるのか。概念的に言えば、「人間の仕事は総じて『DJ』的になっていく」と思われる。
DJは自分で音楽を作るのではなく、いろいろな音楽の断片からコラージュのようなものを構成する。音楽理論の知識がなくてもよい。「ゼロから生み出すこと」ではなく、「掛け合わせ、練り上げること」が「DJのクリエイティビティ」だ。
つまり、「どんな言葉を掛け合わせ、どうジェネレーティブAIを扱ったら、筋のいいたたき台が生成されるか」を考えるセンスこそが、必要となるのだ。
ジェネレ―ティブAIが有能なツールになればなるほど、人間にしかできない「おもしろいこと」「風変わりなこと」を見つけることが大切になる。過去のデータのサンプリングに基づいた、合理的で優等生的な回答にすぎないものに対して、「『自分』という人間ならではの『ひねり』を加えること」が求められるのだ。合理性に優れているAIが浸透すれば、人間が「合理的である」ことはそれほど重要でなくなっていくに違いない。
こうなると、評価されるようになるのは「平均点を取ることよりも、尖った個性を発揮すること」なのだ。平均点であることを重んじてきた日本社会は、まさに変革の時にある。
「学び」のかたちも、当然AIによって変化していく。「自分でゼロから学ぶもの」だった従来の学びは、「ジェネレーティブAIが提案したデータや知識を活用しながら、課題や問いに答えていくもの」へと変わっていくだろう。これは、「是非」というより「選択」の問題だ。
3,400冊以上の要約が楽しめる