著者の石山氏は、「戦略人事」とは、「人事施策を通じて、その企業で働く人々の独自性に富む付加価値を創造し、競争優位を構築すること」だと定義する。その実現は難しいものである。なぜなら、企業ごとに独自性のある人材を短期間で育成するのが難しいうえに、企業の競争優位の源泉は人であると信じる企業が少ないからである。
これにより、様々な弊害が生じている。例えば、成果主義やジョブ型雇用などの流行にのっていく「流行人事」や、賃金カーブの上昇を抑えるために他社の人事施策を真似るなどの「賃金人事」だ。こうして横並びの施策をした結果、自社の独自性が失われている。そこに経営陣と人事部門の協働は見られず、経営陣は人事部門を「人件費を管理する施策の実行部隊」と位置づけてしまっている。
一方、2009年に提唱された「サステナブル人事」とは、企業目標を利益に限定せず、地球環境と多様なステークホルダーに貢献することを前提とした人事のあり方である。サステナブル人事は、「ROCモデル」から構成される。「R」は社員の人間性を尊重するRespectを、「O」は外的環境を重視したOpennessを、「C」は社員との長期的な関係性を築くContinuityを指す。このように、ROCモデルに基づいたサステナブル人事は、戦略人事の考え方を参考にしながらも、より持続的な人事施策への変換を目指して提唱されたものだ。サステナブル人事の実現には、個の尊重に基づいた、現場と人事部門の協働が必要となる。だが、集団の調和を重視してきた日本企業にとっては、難易度の高い人事施策だといえる。
戦略人事とサステナブル人事の両立は難しいものである。サステナブル人事の提唱者たちは、戦略人事をサステナブル人事に置き換えることが望ましいと考えている。そんななか、著者の石山氏は、戦略人事とサステナブル人事の目的は異なり、方向性が違うからこそ区別して考え、両立を目指すべきだと説いている。
注意すべき点は安易な両立になりやすい点だ。
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