脳の闇

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脳の闇
出版社
出版日
2023年02月05日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

同じような経験をしても、日によって楽しく感じたり、反対にイライラしてしまったりすることはないだろうか。些細なことでその時々の気分が左右され、受け取り方が異なってしまうものだ。それだけでなく、理由もわからずに漠然とした不安に苛まれたり、ストレスを感じ続けてしまったりすることもあるだろう。

人間は、自分の意志で思い通りに行動しているように思っていても、実際には脳の状態によって気分や行動が左右されてしまう。不安にとらわれていると途端に上手くいかなくなることもある。しかし、本書では、脳が不安などのネガティブな感情を抱くのも、人間の生存確率を高めるためであったかもしれないと述べられている。

どんなときでも、清く正しく生きられるわけではなく、ときには誘惑に溺れ、欲望を求め、他者とぶつかってしまうこともあるのが人間だ。著者は、そんな人間の不完全さを否定するのではなく、かといって積極的に肯定するのでもなく、人間の様々な側面を脳の機能がもたらす出来事として、受け入れていく。

結局のところ、人間の良いところも悪いところも、あるいは、そもそも善悪の基準も、脳の機能から説明できるのかもしれない。本格的に神経科学の観点から脳機能について説明しようとすると、学術的な用語や概念に基づく必要が生じるが、本書では難解な話をされることはない。しかし、言葉の端々に眠る著者の真意を知るには知的探究心が不可欠だ。その刺激を楽しんでいただきたい。

ライター画像
大賀祐樹

著者

中野信子(なかの のぶこ)
1975(昭和50)年東京都生まれ。脳科学者、医学博士。東京大学工学部応用化学科卒。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。現在、東日本国際大学特任教授、京都芸術大学客員教授。『脳内麻薬』『サイコパス』『不倫』『ペルソナ 脳に潜む闇』など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    ヒトは誰もが承認欲求を持っているが、それは他者に認められ、理解してもらうことで快感を得る脳の機能であり、社会生活への適応を促進するためのものだ。
  • 要点
    2
    脳の前頭前野には、良心や倫理の感覚を司っているとされる領域があり、倫理的に正しい行動をすると快楽が得られるようになっている。「正義の制裁」を加えると快楽物質のドーパミンが放出され、正義に溺れた中毒状態になってしまう。
  • 要点
    3
    人間の脳は安全よりも不安に惹かれるところがある。ヒトが情報を集めて不安に備え、対処することで生存してきたためだ。不安がないほうが生きやすいかもしれないが、それは人間の特徴でもある。

要約

【必読ポイント!】 脳の欲望と快楽が導く行動

ヒトだけが持つ承認欲求と不安
Nuthawut Somsuk/gettyimages

ファンから著者に送られてくるメッセージには一定の傾向があり、著者はそこに時代の陰を感じ取る。「◯◯をしてしまう自分っておかしいですか」といった内容にはシリアスな哀切さがあり、それに返信しても一時的な満足を与えることしかできない。かれらは「脳(科学)に興味を持っている」のではなく、「自分の脳にだけ興味を持っている」のだ。「脳科学者として知られている人間に脳を含めた自分自身を肯定してほしい」という切実な承認欲求である。この欲求自体は自然なものだが、特に日本では、これをあからさまに表現することは歓迎されない。しかし、あなたが「そうしてしまう」のは脳のせいである。これは端的な事実だ。

ヒトは進化の過程で、他者に認められ、理解してもらう、つまり「承認」されると快感を得るようになった。それは、「社会生活への適応を促進する」ためだろう。承認欲求をこれほど強く持っている生物はヒトだけだ。他の生物は餌を探し、生殖活動にいそしむサイクルの中で一生を終える。ヒトはそれらの欲求が解決されると、自分はただ生命活動を維持するだけでない存在価値があると誰かに認めてもらいたいと思うものだ。著者は、自身にも承認欲求があることを認める。

以前、著者が結婚している身であることを知りながらアプローチしてくる男性がいたという。普通に連絡先を交換し、しばらくは礼儀正しいメッセージだったが、徐々に踏み込んだ内容のものを送ってくるようになり、最終的に、著者の心の隙を探り当てることに成功した。

相手のメッセージには繰り返し、人間は孤独であり、僕だけはその孤独を理解できる、というシンプルな内容が込められていた。自分が見ている赤が、他者が見ている赤と同じ色か誰にも証明できないように、脳という観点から見れば、人間は誰とも理解し合えない。だから、絶望的な孤独を感じているときに、その孤独を孤独のまま共有できる人が現れたら、究極の形で承認欲求が満たされるだろう。

次第に、相手のメッセージを心待ちにするようになった。これ以上自分を制御できなくなることを恐れ、著者は連絡先を削除し、端末ごと処分したという。

脳は不安感情を生み出すが、不安は生存のためにリスクを回避する機能としても役立ってきた。そのアンテナは、確実なリスクを検出できないと、リスクではなかったものまで拾ってしまうようだ。その機能が自分に向けられると、孤独感を生み出す。この空洞は自力ではどうにもならない。ただ、承認欲求もそこからくる不安も、生存のためにヒトが獲得したものなのであれば、むしろそれを利用したほうがよいのかもしれない。

湧き出る「正義中毒」
Rouzes/gettyimages

誰もが認める「正しさ」という空気みたいな何かがあり、そこから逸脱した人を攻撃する「正しさハラスメント」のような行為が、最近目にとまるようになった。

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要約公開日 2023.09.15
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