24時間継続的に人間の行動を記録するリストバンド型のウェアラブルセンサ(人に装着するセンサ)を著者自ら装着し、1秒間に20回も計測した詳細な加速度データを過去8年間に及んで蓄積・分析した集大成が本書である。社会現象や人間行動については「社会科学」領域の研究において定性的なレベルの内容にとどまっているが、ウェアラブルセンサの技術で得られた大量データを活用することで、社会現象や経済活動についても定量的かつ精密なサイエンスを構築することが可能となった。本書は、そのようなこれまでサイエンスが対象としてこなかった事象について科学的な解析を多方面から紹介している。
「人の行動に科学的な法則性があるのだろうか?」とは、本書が最初に掲げた問いである。そこでまず、人の時間の使い方に焦点が絞られる。「人は時間の使い方を意思により自由に決められるのか、それとも時間の使い方は何らかの法則により制約されるのか?」ということを、センサ技術によって取得する大量データに基づき、解析をする。
12人の被験者にウェアラブルセンサを着用してもらうことで得たデータによると、人間の腕の動きは「U分布」という統計分布に従う。このU分布とは、人間行動や社会現象にまで見られるという普遍的な分布の裏付けとなる理論を構築して、著者がその統計分布の数理に名付けたものである。
統計学では、正規分布という「釣り鐘型」の分布を前提にすることが多いが、これに対して、U分布は「右肩下がり」である。正規分布は平均値を中心として、その両側に「裾野」が広がっているのが特徴であり、それは分布が一様にランダムにばらまかれている状態を表す。一方、U分布は正規分布よりもっと「まだら模様」で「ばらつき」が大きい状態を表し、いわば、「偏り」を許す、もっと自由度の大きい分布となっているのである。
そして、この「偏りのあるばらつき」は「やりとりの繰り返し」によってもたらされる。例えば、エネルギーの分布はU分布と同じ形をしている。気体中では分子どうしが常に衝突しあい、その際に持っているエネルギーの「やりとり」が行われ、結果右肩下がりの分布となる。分子どうしが衝突する「機会」は等しく、換言すると「平等なチャンス」が与えられているのだが、「やりとりの繰り返し」の後には「偏りのあるばらつき」を示すという「不平等な結果」が必然的に生まれる。この「繰り返しの力」を背景にした「資源配分の偏り」は、幅広い人間行動や社会現象を説明するU分布となるのである。
人間の腕の動きに注目すると、腕の動きという有限の資源を、優先度の低い時間には温存し、優先度の高い時間に割り当てる、という「腕の動きのやりとり」が繰り返されている。従って、人それぞれがどんな「意識」「思い」「感情」「事情」を持っていようとも、必ずU分布に従う。また、U分布に従うと、一日の総活動量(身体運動の総回数)が決まることで、ある帯域の行動にどれだけの時間が使えるか、という「活動予算」も決まってくる。
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