「メーヴェ」とは、宮崎駿が監督した「風の谷のナウシカ」に登場する一人乗りの飛行機である。著者はこのメーヴェに憧れ、子どもの頃には模型の開発を試みたほどだった。メーヴェのような夢のテクノロジーと同時に、宮崎駿は人間が欲に任せてテクノロジーを進歩させることの危険性も描いている。その象徴が、産業文明を焼き尽くした巨神兵だ。テクノロジーを愛しながらも、それに頼った文明の進歩の先を案じてもいる。宮崎駿作品に見られるそうした矛盾は、多くの人が抱く感覚でもあるだろう。
確かに文明の進歩は人類を精神的に追い込んできた側面もある。だが、テクノロジーが大好きな著者は、テクノロジーで殺伐とした未来ではなく、温かい未来を造りたいと考えるようになった。
著者はカーデザイナーとしての経験から、利便性が高いクルマと愛されるクルマは異なることを実感していた。そんな折、ソフトバンクにてPepper開発に携わるチャンスを得る。そこで著者が出会ったのは、うまく起動しないPepperに声援を送る人たちや、ハグを求めるPepperに応えて笑顔になる人たちだった。高齢者施設ではPepperの手を温かくしてほしいという要望があったことにも驚かされた。人々はロボットに、役に立つことだけでなく、コミュニケーションの相手としての温かみを期待しているのかもしれない。
こうした経験から著者は「利便性には貢献しない、だけど人類を幸せにするロボット」の可能性について考えはじめることになる。
生産性や利便性を向上させないにもかかわらず、人類を幸せにしているものには、いったいどのようなものがあるだろうか。
ペットはその代表例だ。人類が犬や猫を愛でるようになったのは、だれかがだれかの面倒を見るという生存戦略で生き延びてきたからである。「面倒を見たい」という本能、「自分は必要とされている」という実感を得たいという欲望が、人類には備わっている。
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