むかしむかし、あるところに病気の母をもつ少年がいた。病魔に少しずつ蝕まれる母親を見ているうちに、少年は母親を失うのが怖くてたまらなくなった。
デイヴィッドという名の少年は、母親を死なせまいと、できるだけ「いい子」にふるまい、自らに課した「決まりごと」で験を担ごうとした。物語の世界で善が報われるように、己の行動が母親の運命を決めると信じたのである。母親の病状が悪化した1年間、少年は小さなグリム童話集と『マグネット』という漫画本を持ち歩き、ときおり母親にせがまれて昔話を読み聞かせていた。
物語は生きている。病気になる前の母親はデイヴィッドにそう教えていた。物語は伝わることで命を持つ。読者が読まない限り、真なる意味でこの世に生きることができない。それが物語だ。
母親は死んだ。善に報いはなかったのだ。母親の愛した本を守るのはデイヴィッドの役目となった。母親を思い起こさせる古い物語の数々をデイヴィッドは忘れようとした。だが、物語はまるでデイヴィッドの頭に居場所をみつけたように留まるのだった。時折、現実と物語の境界は揺らぎ、混ざりはじめてしまうことがある。デイヴィッドのもとにねじくれ男が現れたのはそんな時だ。
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