政治学(上)

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政治学(上)
出版社
出版日
2023年07月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「万学の祖」と呼ばれている。「哲学」とは本来、「知を愛すること」を意味し、現代でいうところの自然科学、社会科学、人文学という分類を超えて、学問的に真理を探究する行為全般を指していた。アリストテレスは、現代でいうところの物理学や天文学、生物学などにおいても重要な貢献を残した人物ということだ。現代では細分化されている様々な学問領域のうちの一つとして、政治学の議論についてまとめられたのが本書である。

本書はまさに政治学の出発点であり、現代の視点からすればやや保守的に見える論点もありつつ、西洋の政治哲学、政治理論、ポリティカル・サイエンスを理解するためには避けて通れない古典である。特に有名なのは、「人間は政治的動物である」あるいは「人間は社会的動物である」とこれまで訳されてきた箇所だが、本訳書ではこれを「人間は自然本性的に国家を形成する動物である」と訳している。他にも様々な箇所で、より主旨を理解しやすく平易な日本語に工夫されている。

現代の政治は、個人や企業の私的な利益の促進と保護、そのための調整が目的とされているが、国家とは本来、人々が共同で公共的な利益を実現し、守るために作られたとする理念が、この『政治学』では論じられている。この観点は、特に政治哲学や政治理論において現代でもたびたび参照されており、近代的な常識を批判的に考え直すために役立つ。政治とは、社会とは何かということを考えるためにも、一度は通読する必要があるだろう。

ライター画像
大賀祐樹

著者

アリストテレス(ΑΡΙΣΤΟΤΕΛΗΣ)
[384-322B.C.] 古代ギリシャを代表する哲学者。ギリシャ北部のスタゲイラに生まれ、17歳ころアテナイのプラトンの学園アカデメイアに入学、20年間研究生活を送る。プラトンの死後、小アジアなどでの遍歴時代を経て、50歳近くでアレクサンドロス王の庇護のもとでアテナイに学園リュケイオンを創設し、学頭として研究と教育に没頭した。かれの著作は講義ノートが大部分であり、内容別に整理され、学問方法論、理論学の『形而上学』『魂について』、実践学の『ニコマコス倫理学』『政治学』、制作学の『詩学』などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間は共同で善を実現するために家や村を共同体として形成する。全ての共同体を包括するのが国家であり、国家は最高の善を目指す。動物の中で人間だけが言葉で善悪を共有できるため、本性的に国家を形成する。
  • 要点
    2
    善く生きることが人間の目的であり、公共善の実現が国家の目的である。そのため、最善の一人による支配が王制、優れた少数者による支配が貴族制、中庸の多数者による支配が共和制と呼ばれ、それぞれの逸脱した国制が、独裁制、寡頭制、民主制と呼ばれる。
  • 要点
    3
    最善の国制とは、過度に恵まれていたり、貧しかったりするわけではない中間の人々によって担われる、中間的な国制である。

要約

【必読ポイント!】 国家とは何か

人間は国家を形成する動物である
Farknot_Architect/gettyimages

どんな国家も一種の共同体であり、どの共同体も善のために形成されている。あらゆる善の中で最高のものを目指すのが、共同体を包括する最高の共同体としての国家である。

共同体はどのように自然発生するのだろうか。生殖のために男女が組になることは、他の動植物と同じである。また、先を見通せる知性を生まれつき備えた者が支配者となり、肉体労働ができる身体を持つ者が生まれながらの被支配者となって、互いの自然的な性質を活かし、生存のために組になる場合もあるという。このように、男性と女性、主人と奴隷の関係から生活のために生まれた初めての共同体が、家だ。

多くの家から形成された最初の共同体が村である。村が自然に生じるのは、日々の生活のためという以上に、一つの家から分家して形成された場合であろう。最初期の国家が王国であるのも、同じ理由に基づく。家長としての王が支配する家が集まってできたからだ。この国家は、多くの村から形成される究極の共同体である。国家は自足を極限まで達成しており、善く生きるために存在している。自然的に発生した家と村を基礎とする国家もまた、自然的に存在し、これらの共同体にとっての最善状態という究極目的となる。共同体が自然に発生し、国家に至る経緯を見ると、「人間は自然本性的に国家を形成する動物である」ということは明らかである。

蜂などの他の群生動物とは違い、なぜ人間は国家を形成する動物になったのか。それは、動物の中で人間だけが(自然の作った)言葉を持つからである。快・不快であれば動物の声も伝えるが、言葉は有益性と有害性、正義と不正を明示できる。人間だけが、善と悪、正義と不正の感覚を持ち、言葉で共有できるからこそ、家や国家を作り出すのだ。

国家は公共善のために求められる

全体は多くの部分から構成されるが、国家を構成する部分とは多数の市民である。しかし、誰が市民と呼ばれるのか、その定義は論争の的となっている。特定の場所に居住していることをもって市民になるわけではない。たとえば居留外国人もそれに当てはまるが、訴訟などある程度の裁判権を与えられてはいても、子どもや老人と同じような意味で、限定的な表現を必要とする市民である。無条件で市民と規定できるものとは、「裁判の判決への参与と政治的な支配を行う公職への参与」である。そして、この条件を満たす人々が自足した生活を送っていける集団が、国家だ。

国制とは、「万事について最高の権限を持つ公職の組織体系のこと」であり、政府のあり方を規定する。民主制では多数の民衆が最高の権限を持つ、というようなことだ。

人間は自然本性的に国家を形成するので、互いに助け合う必要がないときでも、「ともに生きる」ことへの欲求を持ち続ける。しかし、この欲求だけでなく、「公共的に人々のためになること」としての公共善が人々を集結させてもいる。そのため、誰にとっても、単に生きることだけでなく、立派に生きることが、公共的な面でも個人の生き方の面でも、最大の目的となっている。

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要約公開日 2023.10.05
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