先読み!IT×ビジネス講座 量子コンピューター

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出版社
インプレス

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出版日
2023年08月11日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「量子の世界」は驚きに満ちている。我々が当たり前と思っている物理法則とは異なる法則が支配している……というような、現実でないような事が起こるのである。そのため、フィクションの分野では「シュレディンガーの猫」や「多世界解釈」といった、いわば「おいしいとこ」だけが作品に利用されてきた。

こうした摩訶不思議なミクロの世界の理論を応用したのが「量子コンピューター」である。「そもそも量子論とは何なのか」と問われると、首を傾げざるをえない人も多いのではないだろうか。実際、一般向けにかなりわかりやすくかみ砕かれた本ですらも、多くの人にとってはかなり読解が難しいものになっている。

量子論は古典物理の知識がある程度ないと、一般人向けの本ですら難解である。粒と波の性質を持つと言われても、波動に関する諸々(干渉や回折)をイメージできなければまるで意味が分からない。また量子論の発展にまつわる実験の数々も、物理に対して多少の知識がなければ何を意味しているかもわからないだろう。さらに量子コンピューターともなれば、そのすごさは従来のコンピューターとの比較で語られるため、コンピューターの知識も必要になってくる。

本書の素晴らしい点は、そうした小難しい話をすべて省略しつつ、量子コンピューターの要点を正確に押さえているところにある。量子コンピューターがなぜすごいのか、どういう仕組みで動いているのか、どういう開発状況なのかが手に取るように理解できる。最初の一冊にこれほどふさわしい本はないだろう。

著者

湊雄一郎(みなと ゆういちろう)
東京都生まれ。東京大学工学部卒業。隈研吾建築都市設計事務所を経て、2008年にMDR(現blueqat)株式会社設立。2015年総務省異能vation最終採択、2017~19年内閣府ImPACT山本プロジェクトPM補佐、2019~2021年文科省さきがけ量子情報領域アドバイザー、2022年~SEMI量子コンピュータ協議会委員長を務める。2022年Nature社ScientificReports物理学分野論文TOP100の2位(https://www.nature.com/collections/ehjdcaeiag/)。最近の研究テーマは深層学習・量子機械学習・テンソルネットワーク・テンソル分解など。

酒井麻里子(さかい まりこ)
ITライター。企業のDXやデジタル活用、働き方改革などに関する取材や、経営者・技術者へのインタビュー、技術解説記事、スマホ・ガジェット等のレビュー記事などを執筆。メタバース・XRのビジネスや教育、地方創生といった分野での活用に可能性を感じ、2021年8月よりWEBマガジン『Zat's VR』(https://vr-comm.jp/)を運営。メタバースに関するニュースや、展示会・イベントレポート、ツールの解説やレビューなどを発信。Yahoo! ニュース公式コメンテーター(IT分野)。株式会社ウレルブン代表。Twitter(@sakaicat)では、デジタル関連の気になった話題や役立つ情報などを発信。

本書の要点

  • 要点
    1
    「量子」とは原子や電子など「極小の物質やエネルギー」を指す。この量子を利用して開発されているのが「量子コンピューター」である。
  • 要点
    2
    量子は粒と波の性質の両方を持ち、状態を重ね合わせることができる。量子コンピューターでは「重ね合わせ」や複数の量子を連動させられる「もつれ」の性質を利用して計算している。
  • 要点
    3
    量子コンピューターにはエラーが多く、実用化にはかなりの時間を要する。
  • 要点
    4
    量子コンピューターの活用が期待される分野は、「材料化学計算」「最適化計算」「金融計算」「暗号」「機械学習」である。

要約

量子コンピューターとは

なぜ「量子コンピューター」が注目されているのか

2023年3月、国産初の量子コンピューターが発表されて話題となった。そもそも量子コンピューターとは何か。従来のコンピューターとどのような違いがあるのだろうか。

量子コンピューターに注目が集まる理由は、従来のコンピューターに「限界」が生じているからである。従来のコンピューターは、半導体チップの縮小化によってその性能を向上させてきた。しかし、そのサイズがある一定を下回ると、これまでの古典的な物理法則では計算ができなくなってしまう。このサイズでは「量子の世界」という極めて小さい世界の物理法則を使わなくてはならない。そういった量子の世界に合わせて作られたコンピューターが量子コンピューターである。

理論上、量子コンピューターは従来のコンピューターと同等以上の能力を持ち、量子コンピューターにしかできない分野もある一方、エラーが多いという欠点がある。現段階では研究開発を中心に、量子コンピューターしかできない高度な計算を必要とする領域での開発が進んでいる。

「量子」とは何か
Funtap/gettyimages

そもそも「量子」とは何だろうか。

量子とは「非常に小さい物質やエネルギー」を指し、物質を構成する原子、電子、陽子、中性子などがそれにあたる。原子は極めて小さく、1000万分の1ミリメートルほどの大きさであり、さらに原子の中にある原子核は100億分の1ミリメートル程度である。量子コンピューターでは、これらの極小の物質が使われている。

「重ね合わせ」と「もつれ」

量子の世界では、我々の常識では考えられないような物理法則がはたらいている。その1つが「状態の重ね合わせ」だ。量子には「波」と「粒」の2つの性質があるが、見ると粒になってしまうという不思議な性質を持っている。

従来のコンピューターは「0」と「1」を組み合わせることで、あらゆる情報を処理している。しかし、量子コンピューターは「粒にも波にもなれる」という量子の性質を生かし、0と1を重ね合わせた状態で計算する。通常は1つの物質が0と1の性質を持つことはないが、量子の世界ではそれが可能なのである。

また「量子もつれ」という、複数の量子の動きを連動させられる性質も大きな特徴だ。計算するときに「0」か「1」のどちらにするかを決められるため、組み合わせの数を減らして効率化することができる。

量子コンピューターは量子の特性を生かすことにより、従来のコンピューターでは途方もなく時間がかかった計算も、瞬時に行うことができるのである。

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要約公開日 2023.10.12
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