人類の歴史上、生産活動のインセンティブとなるのは、非中央集権的な市場と中央集権的な組織の二つだった。しかし、ビットコインやその派生物の登場によって、通貨という第三のインセンティブが生まれつつある。
通貨には、「価値交換」、「価値保存」、「価値尺度」という三つの基本機能があることが知られているが、もうひとつの「通貨発行益(シニョレッジ)」という機能の重要性はこれまで見過ごされてきた。シニョレッジとは、市場における通貨の価値と通貨が通貨として使われなかった場合の価値との差である。
古代の通貨では、シニョレッジはゼロだった。一方、現代のドルやビットコインのような通貨では、シニョレッジがすべてを占めるようになった。
ビットコインの価値もすべてがシニョレッジで、内在的な価値はゼロだが、そのシニョレッジの一部は採掘者(マイナー)に渡る。残りはビットコインネットワークを保護するための経費として、マイナーの経費をまかなうために消費される。
シニョレッジはビットコインネットワーク自体のセキュリティのために直接使われるという点で、公益に使われ、非中央集権型で、公益も生み出すインセンティブが実現している。他にもプライムコインやドージコイン、ヴェンといった代替通貨は、通貨の技術上の優位性というよりも、掲げている理想から草の根的に支持されている。一方、リップルなど技術的に優れているにもかかわらず、一企業によってすべての通貨が発行されている性質から、暗号資産ファンから支持を集めていないものもある。
限定的なコミュニティ内部だけで運用される「社会通貨」は昔から存在していたが、ピーク時の20世紀前半に比べると衰退している。それは、社会通貨がごく狭い範囲で通用する以上の成果をあげられず、米ドルのように通貨の強さを伴う金融システムの効率を活かせなかったからだ。
しかし、暗号資産はグローバルで、ソースコード自体に強力なデジタル金融システムが組み込まれている。だから、暗号資産は新たな「経済の民主主義」を実現させるかもしれない。
ビットコインの技術を通貨以外の目的で使おうとする暗号技術ネットワークの総称が「ビットコイン2.0」である。そのプロトコルをめぐってさまざまな議論がなされ、実際に、カラードコインやマスターコインなどが登場した。しかし、これらは特定の業種や目的に限定されていた。
一方、できるかぎり汎用性を持たせ、誰もがどんな目的にも利用できるアプリケーションをその上で開発できる暗号資産ネットワークとして構築されるのが、イーサリアムだ。
ビットコインの難点は拡張性にある。ブロックチェーンのトランザクションの完了を確認するための「簡易支払い検証」というプロトコルには、数メガバイト程度の帯域幅とストレージしかない。
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