イーサリアム
イーサリアム
若き天才が示す暗号資産の真実と未来
イーサリアム
出版社
出版日
2023年02月27日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

暗号資産といえば、価格が急騰して大きな利益を得たり、逆に大幅な価格下落で大損をしたりといった話題が思い浮かぶ。投機の対象として、ハイリスク・ハイリターンなものというイメージを持っている人も多いだろう。ネットワーク上で使えるお金という点では、電子マネーと同じ機能であるように思われるかもしれない。しかし、ビットコインをはじめとした暗号資産に用いられているブロックチェーンの技術やその理念は、単に通貨を代替する機能や投機対象としての価値だけではない、社会の構造や制度を刷新するほどの、革新的な可能性を秘めている。

著者が開発したイーサリアムは、暗号資産にとどまらない一つのプラットフォームのようなものだ。政府や企業による中央集権的な管理ではなく各参加者による自律的な管理に基づいている。一方、仕組みとしてインセンティブが組み込まれることで、純粋な善意だけではない形で信頼関係が構築されていく。完全に規範的な仕組みでは、全ての人がその規範を受け入れるのは難しいが、完全に利己的な仕組みでは、どこかで破綻が生じてしまう。人間が、利己的に行動しつつも、他者と協調し、よい関係を築いていくという性質を、仕組みとして上手く反映し、形にしたものが、現在、そしてこれからの暗号資産のあり方なのだ。

本書が提示する新しい世界観を受け入れていくことで、これまでの自分が持っていた、さまざまな制度や社会のあり方に関する既成概念が書き換えられていく。そんな感覚を得られることだろう。

ライター画像
大賀祐樹

著者

ヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)
ロシア系カナダ人のプログラマーであり、2011年に「ビットコインマガジン」を共同創刊した著述家でもある。2014年にイーサリアムを開発。2021年には、タイム誌が選ぶ「世界で最も影響力のある100人」に選ばれている。

本書の要点

  • 要点
    1
    非中央集権的で分散型自律組織の仕組みのブロックチェーンに基づくビットコインやイーサリアムは、公益を生み出すインセンティブを実現している。
  • 要点
    2
    イーサリアムは、どんなアプリケーションでも開発できる内部言語でプログラミングされており、通貨以外の機能でも実現できる。
  • 要点
    3
    分散型自律組織は超合理的な協力を推進させ、プルーフ・オブ・ステークは、正当性を生み出す。ブロックチェーンは実際のガバナンスにおいて、新しい可能性をもたらすだろう。

要約

イーサリアムのアイデア

暗号資産の価値
matejmo/gettyimages

人類の歴史上、生産活動のインセンティブとなるのは、非中央集権的な市場と中央集権的な組織の二つだった。しかし、ビットコインやその派生物の登場によって、通貨という第三のインセンティブが生まれつつある。

通貨には、「価値交換」、「価値保存」、「価値尺度」という三つの基本機能があることが知られているが、もうひとつの「通貨発行益(シニョレッジ)」という機能の重要性はこれまで見過ごされてきた。シニョレッジとは、市場における通貨の価値と通貨が通貨として使われなかった場合の価値との差である。

古代の通貨では、シニョレッジはゼロだった。一方、現代のドルやビットコインのような通貨では、シニョレッジがすべてを占めるようになった。

ビットコインの価値もすべてがシニョレッジで、内在的な価値はゼロだが、そのシニョレッジの一部は採掘者(マイナー)に渡る。残りはビットコインネットワークを保護するための経費として、マイナーの経費をまかなうために消費される。

シニョレッジはビットコインネットワーク自体のセキュリティのために直接使われるという点で、公益に使われ、非中央集権型で、公益も生み出すインセンティブが実現している。他にもプライムコインやドージコイン、ヴェンといった代替通貨は、通貨の技術上の優位性というよりも、掲げている理想から草の根的に支持されている。一方、リップルなど技術的に優れているにもかかわらず、一企業によってすべての通貨が発行されている性質から、暗号資産ファンから支持を集めていないものもある。

限定的なコミュニティ内部だけで運用される「社会通貨」は昔から存在していたが、ピーク時の20世紀前半に比べると衰退している。それは、社会通貨がごく狭い範囲で通用する以上の成果をあげられず、米ドルのように通貨の強さを伴う金融システムの効率を活かせなかったからだ。

しかし、暗号資産はグローバルで、ソースコード自体に強力なデジタル金融システムが組み込まれている。だから、暗号資産は新たな「経済の民主主義」を実現させるかもしれない。

イーサリアムの可能性

ビットコインの技術を通貨以外の目的で使おうとする暗号技術ネットワークの総称が「ビットコイン2.0」である。そのプロトコルをめぐってさまざまな議論がなされ、実際に、カラードコインやマスターコインなどが登場した。しかし、これらは特定の業種や目的に限定されていた。

一方、できるかぎり汎用性を持たせ、誰もがどんな目的にも利用できるアプリケーションをその上で開発できる暗号資産ネットワークとして構築されるのが、イーサリアムだ。

ビットコインの難点は拡張性にある。ブロックチェーンのトランザクションの完了を確認するための「簡易支払い検証」というプロトコルには、数メガバイト程度の帯域幅とストレージしかない。

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要約公開日 2023.09.16
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