2021年11月、著者は10年間務めた北海道日本ハムファイターズの監督を退任した。そして、本拠地最終戦の前日である10月26日、関係者から「侍ジャパンの監督になってほしい」という話を持ちかけられた。あまりの大役に、著者は反射的に「断ることはできますか?」と答えてしまった。
自分よりも実績のある指導者はたくさんいるし、ファイターズではどんな手を打ってもチームが好転しないという経験もした。「自分はふさわしくない」という想いに苛まれるなか、「尽己」の二文字が頭に浮かんだ。幕末の儒家・陽明学者である山田方谷の言葉で「目の前の物事にすべてを尽くし、できることをやり切る」という意味がある。まだ見たことのない景色を見てみたい。そんな欲求にかき立てられ、著者は腹をくくった。
「私利私欲を捨て、天命に生きるべき」という『論語』の一節「命を知らざれば、以て君子偽ることなし」も背中を押してくれた。著者は「やるしかないだろう!」と闘志がみなぎるのを感じた。
選手選考でもっとも難しかったのは、メジャーリーガーの招集だ。選手たちの出場は、所属チームに委ねられているところもあるからだ。
著者はアメリカ行きの飛行機の中で、18世紀の佐賀藩士・山本常朝の『葉隠』の一文、「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」を書き記した。「死を覚悟するくらいの気持ちで取り組めば、自分のすべきことをまっとうできる」と、著者は理解している。
メジャーリーガーが出場しなければ、チーム構想は根本から崩れてしまう。そして何より、誰もが見たいと思えるメンバーで臨めないと、日本野球が崩壊する可能性もある。著者はそのくらいの危機感を持っていた。
結果として、ダルビッシュ有、大谷翔平、吉田正尚、鈴木誠也、そしてヌートバーの5名の出場確約を取り付けた。吉田に至っては、メジャー1年目にもかかわらず、本人から直々に「出たい」と連絡をもらった。著者はあまりの嬉しさに目頭が熱くなった。
私たちは普段の生活で、「死を覚悟するくらいの気持ち」になることはほとんどない。しかし、人生の大一番は誰にでも訪れる。そのときに力を発揮するため、この言葉を心に留めて日頃から準備をしておくといいのではないだろうか。
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