動物たちは何をしゃべっているのか?

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動物たちは何をしゃべっているのか?
出版社
出版日
2023年08月09日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

言葉を操ることは、人間に与えられた特権であり、人間を人間たらしめる要素である。そのように感じている人は多いだろう。だがそれは事実ではない。なぜなら、多くの動物が言葉を使ってコミュニケーションを取っているからである。

それは単なる鳴き声ではない。文法を持ち、イメージを伝え、ときに嘘の情報で他の動物をコントロールすることさえできる、言語としかいいようのない複雑で高度なものだ。

本書はそんな動物の言語を研究する2人の著者、「ゴリラになりたくて群れの中で過ごした研究者」と「シジュウカラになりたくて年の半分を森で過ごす研究者」の対談である。山極寿一は京都大学の前総長を務め、霊長類研究に取り組んできた。フィールドワークのようなかたちで実際にゴリラと共に生活する手法で、その生態を観察してきた。もうひとりの著者、鈴木俊貴は鳥類の研究者だ。シジュウカラ科に属する鳥の研究を専門としており、その意味や文法の解明を目指している。

分野の最前線に立つふたりの研究者の視点を通じて、本書は言語という切り口から、動物がどのように世界を捉えているのかを教えてくれる。

言葉は人間だけの特権ではない。しかし、人間にとって言葉を操ることが重要な要素であることは間違いない。動物にとっての言語世界を明らかにすることは、人間と言語の関係を相対化し、より理解を深めてくれる。動物たちが何をしゃべっているのかを知ることは、我々人間が何をしゃべっているのかを理解することなのだ。

ライター画像
池田明季哉

著者

山極寿一(やまぎわ じゅいち)
総合地球環境学研究所所長。日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手、京都大学理学研究科助教授、教授、同大学理学部長、理学研究科長を経て、2020年9月まで京都大学総長を務める。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長、国立大学協会会長、日本学術会議会長、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員、環境省中央環境審議会委員を歴任。2020年4月より現職。鹿児島県屋久島で野生ニホンザル、アフリカ各地でゴリラの行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。著書に『家族進化論』(東京大学出版会)、『暴力はどこからきたか(NHKブックス)、『サル化する人間社会』(集英社)、『ゴリラからの警告』(毎日新聞出板)、『京大総長、ゴリラから生き方を学ぶ』(朝日選書)など。

鈴木俊貴(すずき としたか)
東京大学先端科学技術研究センター准教授。立教大学にて博士号を取得後、日本学術振興会特別研究員SPD、京都大学生態学研究センター機関研究員、東京大学大学院総合文化研究科助教、京都大学白眉センター特定助教などを経て、2023年より現職。日本動物行動学会賞、日本生態学会宮地賞、文部科学大臣表彰若手科学者賞など受賞歴多数。シジュウカラ科に属する鳥類の行動研究を専門とし、特に鳴き声の意味や文法構造の解明を目指している。
英・動物行動研究協会と米・動物行動学会が発行する学術誌『Animal Behaviour』の編集者なども務める。2023年4月に東京大学にて世界初の動物言語学分野を創設。監修に『にんじゃ シジュウカラのすけ』(世界文化社)。本書が初の著書となる。

本書の要点

  • 要点
    1
    動物は、一般に思われているよりも言語を使ったコミュニケーション方法を多く用いている。
  • 要点
    2
    シジュウカラは見つけた天敵によって鳴き声を変え、さらに天敵の姿をイメージすることができる。それだけでなく、鳴き声が語順と文法を持っていることが実験でわかっている。
  • 要点
    3
    ゴリラもまた高度な言語能力を持つ。鳴き声とジェスチャーを組み合わせて文脈を読めるだけでなく、相手の考えていることを想定する心の理論がある。発話は限られているが、手話を教えれば過去の出来事を語るようなことまで表現できる。
  • 要点
    4
    人間は高い言語運用能力を持つが、それによって言語以外の感じ方を忘れつつあるのかもしれない。

要約

【必読ポイント!】 おしゃべりな動物たち

動物たちはおしゃべりだった

動物はさまざまな方法でコミュニケーションを取っているが、意外にも「言葉」を使った方法も多く用いられている。

著者のひとりである鈴木俊貴が専門とするのは、群れで生活する小さな鳥のシジュウカラだ。体のサイズが小さいので、天敵であるタカやヘビに先手を打たれるとやられてしまう。そのため、ある個体が天敵を発見すると、警戒の鳴き声を発する。

危険に対する対処法は天敵ごとに異なる。タカが来たら隠れなくてはならないが、ヘビが木を登ってきているのにじっとしていたら食べられてしまう。

そのためタカの場合は「ヒヒヒ」、ヘビの場合は「ジャージャー」と鳴き声を変えて、群れの仲間が対応できるようにしているのだ。

「ジャージャー」という声が聞こえると、シジュウカラはヘビがいそうな地面や茂みを確認しに行く。鳴き声の録音を流しても、同様の行動を取る。

しかし、これだけでは「ジャージャー」という鳴き声が「茂みを確認せよ」という指示なのか、「ジャージャー」は「ヘビ」のシンボルで、それを聞いたシジュウカラがヘビのイメージを思い浮かべているかは定かではない。

シジュウカラは言葉のイメージを持っている
Andrew_Howe/gettyimages

実験の結果、シジュウカラの「ジャージャー」はヘビのシンボルであることがわかっている。

鈴木は、「ジャージャー」という声を流すと同時に、木の枝に紐をくくりつけ、木の幹沿いに引き上げて動かすという実験を行った。「ジャージャー」という声を流しながら枝を動かすと、シジュウカラはほぼ確実にこの枝をヘビと見間違えて確認しにきたという。しかし別の声を流したときには、同じように枝を動かしても反応しない。つまりシジュウカラは「ジャージャー」という音からヘビのイメージを思い浮かべているため、木の枝をヘビと見間違えてしまうのだ。

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要約公開日 2023.11.09
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