ネガティヴ・ケイパビリティで生きる

答えを急がず立ち止まる力
未読
ネガティヴ・ケイパビリティで生きる
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答えを急がず立ち止まる力
未読
ネガティヴ・ケイパビリティで生きる
出版社
出版日
2023年02月10日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

本書は「ネガティヴ・ケイパビリティ」をテーマに、共に手探りで思考を進めながら、学び、語り合うことを意図して制作されたものだ。本書の前書きにある「思考する共犯者」とは、『闇の自己啓発』(早川書房)の引用で、自己を失わずに済むためのアイデアである。自分一人では簡単に「考えたつもり」になりがちだが、誰かと一緒に考えると、思いもしない展開につながる可能性があるという。本書は三人の著者が対談しながら、ネガティヴ・ケイパビリティという概念の輪郭を捉えるべく、論点を投げかけあいながら展開していく。

一見すると、話はあえて遠回りに見える展開をすることもあるが、一足飛びに結論に手を伸ばさず、「よどみ」を生じさせながら対話するさまは、ネガティヴ・ケイパビリティの根本的な姿勢によるものだ。本書を読了したら、今まで特にビジネスパーソンの間で重視されてきた「スピード感」「即断・即決」「問題解決力」という能力が、いい効果だけをもたらすわけではないということがわかるだろう。じりじりと悩み続けるのは大変だが、かといって即断し続けることにも限界がある。スピードと即断が求められたとき、その解決法ではないアプローチを知っておくことは、現代人が見失いがちな視点である。

一度判断の速度をゆるめ、物事をあいまいで疑問が残る状態のまま真摯に目を凝らすと、まったく違う景色が見えてくる。自分でもわからない生きづらさや、モヤモヤを抱えている人に、ぜひ一読を勧めたい。

ライター画像
菅谷真帆子

著者

谷川嘉浩(たにがわ よしひろ)
1990年、兵庫県に生まれる。哲学者。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。博士(人間・環境学)。現在、京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師。単著に『スマホ時代の哲学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『鶴見俊輔の言葉と倫理』(人文書院)、『信仰と想像力の哲学』(勁草書房)、共著にWhole Person Education in East Asian Universities, Routledgeなどがある。

朱喜哲(ちゅ ひちょる)
1985年、大阪府に生まれる。哲学者。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、大阪大学社会技術共創研究センター招聘教員。著書に『〈公正〉を乗りこなす』(太郎次郎社エディタス)、『バザールとクラブ』(よはく舎)、共著に『世界最先端の研究が教える すごい哲学』(総合法令出版)、共訳に『プラグマティズムはどこから来て、どこへ行くのか』(勁草書房)などがある。

杉谷和哉(すぎたに かずや)
1990年、大阪府に生まれる。公共政策学者。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程単位取得認定退学。博士(人間・環境学)。現在、岩手県立大学総合政策学部講師。著書に『政策にエビデンスは必要なのか』(ミネルヴァ書房)、論文に「EBPMのダークサイド:その実態と対処法に関する試論」(『評価クォータリー』63号)、「新型コロナ感染症(COVID-19)が公共政策学に突き付けているもの」(共著、『公共政策研究』20号)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    ネガティヴ・ケイパビリティとは「事実や理由に決して拙速に手を伸ばさず、不確実さ、謎、疑いの中にいることができるとき」に見出せる能力である。取り組むべき問題や謎が複雑かつ巨大であるほど、即断即決せず物事を探索的に知覚しながら、その核心にあるものを見定めようとする姿勢が大切である。
  • 要点
    2
    自分の頭で答えを見つけ、それを人に話さえすればいいと思う近代人の姿勢は、ネガティヴ・ケイパビリティを腐敗させるものである。
  • 要点
    3
    SNSには、あらゆる社会課題を等しく「自分事化」し、それに対する反対意見すべてを「自分への批判」と認知させてしまう作用がある。

要約

ネガティヴ・ケイパビリティ

拙速な答えに手を伸ばさない能力
francescoch/gettyimages

スピードが要求される加速社会を生きる私たちにとって、とりあえず「これだ」と結論付けて片付けることは避けられない。「仮説思考」や「ロジカルシンキング」は迅速な対応や判断を支えるフレームワークだ。

学校や家庭、企業の中で目立った成果を上げるには、積極的で素早い情報処理や実践が有効だ。しかし、「ネガティヴ・ケイパビリティ」は、こうしたことを徹底して遠ざけようとする。この言葉を作った詩人であるジョン・キーツによると、ネガティヴ・ケイパビリティとは「事実や理由に決して拙速に手を伸ばさず、不確実さ、謎、疑いの中にいることができるとき」に見出せる能力である。取り組むべき問題や謎が複雑かつ巨大であるほど、即断即決せず物事を探索的に知覚しながら、その核心にあるものを見定めようとする、曖昧で不確実な時間を過ごすことが大切になるのではないか、と谷川は考える。

ネガティヴ・ケイパビリティは、みんなが同じ方向へまっすぐに進んでいく中で、それとは別の道を考えること、つまり、すでに出ている結論や正解に異を唱え、探索的に思考することである。

もちろん、社会すべてがこうだと困ってしまうが、このような立ち回りが許容される場所は必要なはずである。無駄に思えるものが失われた社会では、選択肢を想像する余地がなくなるため、社会が提示できる行為や創造、言葉のレパートリーが乏しくなっていく。社会の中にこうした「よどみ」が増えれば、生きづらさを感じている人も、多少は息をつきやすくなるのではないだろうか。

【必読ポイント!】ナラティヴと陰謀論

ナラティヴのネガティブな側面

「ナラティヴ」とは、直訳すると「物語」である。ナラティヴは、戦争や哲学、社会学など幅広い分野で用いられ、大きな影響力を持つ。しかし、物語の途中でその語りにそぐわないものが削ぎ落とされ、関心の範囲外に置かれてしまうという、ネガティブな側面もある。

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要約公開日 2023.11.16
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