スピードが要求される加速社会を生きる私たちにとって、とりあえず「これだ」と結論付けて片付けることは避けられない。「仮説思考」や「ロジカルシンキング」は迅速な対応や判断を支えるフレームワークだ。
学校や家庭、企業の中で目立った成果を上げるには、積極的で素早い情報処理や実践が有効だ。しかし、「ネガティヴ・ケイパビリティ」は、こうしたことを徹底して遠ざけようとする。この言葉を作った詩人であるジョン・キーツによると、ネガティヴ・ケイパビリティとは「事実や理由に決して拙速に手を伸ばさず、不確実さ、謎、疑いの中にいることができるとき」に見出せる能力である。取り組むべき問題や謎が複雑かつ巨大であるほど、即断即決せず物事を探索的に知覚しながら、その核心にあるものを見定めようとする、曖昧で不確実な時間を過ごすことが大切になるのではないか、と谷川は考える。
ネガティヴ・ケイパビリティは、みんなが同じ方向へまっすぐに進んでいく中で、それとは別の道を考えること、つまり、すでに出ている結論や正解に異を唱え、探索的に思考することである。
もちろん、社会すべてがこうだと困ってしまうが、このような立ち回りが許容される場所は必要なはずである。無駄に思えるものが失われた社会では、選択肢を想像する余地がなくなるため、社会が提示できる行為や創造、言葉のレパートリーが乏しくなっていく。社会の中にこうした「よどみ」が増えれば、生きづらさを感じている人も、多少は息をつきやすくなるのではないだろうか。
「ナラティヴ」とは、直訳すると「物語」である。ナラティヴは、戦争や哲学、社会学など幅広い分野で用いられ、大きな影響力を持つ。しかし、物語の途中でその語りにそぐわないものが削ぎ落とされ、関心の範囲外に置かれてしまうという、ネガティブな側面もある。
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