「知らない人に向けて、自己紹介を1枚で書いてください」という課題を出されたら、あなたはどのような内容を書くだろうか。
自分を「伝える」ことは難しい。自分は「伝えた」つもりでも、「伝わる」とは限らないからだ。知らない相手に自分を伝えるためには、相手の心をつかむことが不可欠だ。そして「自分をこう思ってもらいたい」という企てを持たなければならない。
そもそも「伝わる」とは何だろう?「伝わる」を理解するには、まずその言葉を自分なりに定義する必要がある。著者が考える「伝わる」とは、その人が頭の中で「思い出せる」ことである。自己紹介をした日の帰りに「あの人は◯◯だったなあ」と思い出したり、困りごとがある時に「あの人ならきっと知ってるはずだ」と頭に浮んだりする人だ。相手に自分を思い出してもらうには、まず「自分の何を覚えてもらいたいか」をクリアにする必要がある。
多くの人は自己紹介をまとめる際、「あれもこれも」と盛りこみ過ぎる傾向がある。しかし、これでは伝わらない。自分の特徴を洗い出し、足し算を重ねた末に、思い切って引き算をする。「これでいく!」と覚悟を決めて選ぶことが大切だ。
情報の伝え方によって、印象に残るかどうかは大きく変わる。そのために有効なのは「Less is more」という考え方だ。「Less is more」とは「少ない方が豊かである」という意味で、20世紀近代建築の巨匠、ミース・ファン・デル・ローエが提唱した概念である。
言葉でも同じことが言える。その証拠に、簡単に覚えられて多くの人に広まる言葉は、いずれも短い。たとえば、2019年の新語・流行語大賞に選出されたのは「ONE TEAM」「計画連休」「タピる」などのワンフレーズであり、もっとも長いものでも「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」であった。
広告業界には「ワンキャッチ、ワンビジュアル」という基本の作法がある。広告の中身も大切だが、まずは見た人が受け取りやすいように、一つのビジュアルに対して一つのコピーにするのである。
少ない言葉の方が、結果的には相手に多くが伝わっていく。短く強くシンプルに。言葉における「Less is more」を意識しよう。
作家の開高健さんは、世界で最も偉大な発明をしたのは「ライオンという言葉を発明した人」だと言っている。ものすごい牙を持った、恐ろしい混沌の塊。その存在に「ライオン」という言葉を当てはめることで、「恐ろしい混沌の塊」は「ただの四つ足の獣」に変わった。「ライオン」を見つけたら闘うなり、逃げるなりする。名前をつけることで頭の中に概念が生まれ、行動指標ができる。人間はこうして、「ライオン」の恐怖を克服したのだ。
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