著者たちが大学院に在籍していたころ、研究方法論の講義で学部生を指導していた。必須のゴールは研究計画書を完成させることである。そのための完璧なロードマップを作ったつもりだった。しかし、それが上手くいかない。これに従えば完全に研究プロジェクトを最後まで導けるはずなのに。その原因は意外なところにあった。
研究は、手をつける前からすでに始まっている。研究対象に「興味」を持たなければ、文献を収集したり、仮説を立てたりすることもできない。そう、学生たちは「自分が何を研究テーマにすればいいのか」からわからなかったのである。
もっとも難しいのは研究を続けることではなく、研究に着手する前の段階なのだ。なのに、それを教えてくれるものはどこにもない。研究の道筋について手ほどきする書物はたくさんあるのに、研究テーマを見つけるための本はほとんどない。
それは「人はやりたいことを最初から知っている」という根拠のない思い込みがあるからだ。でも実際は、やりたいことを言語化できないか、そもそもやりたいことに気付いていない可能性がある。往々にして人は、他人を模倣して、それが「自分のやりたかったことだ」と錯覚する。
真の研究というものは、研究者が自分のなかにある問題を見極め、それに対しての道筋を考えることから始まるのだ。
本書では「自分中心的」アプローチを推奨する。注目するのは研究の初期段階だ。研究という船出にあたって役立つ、様々な技術や心構えを説明しよう。
実践の点では、自分の直感、興味、志向との密接なつながりを研究の始めから終わりまで維持することが重要だ。「自分中心的な」研究者であるためには、自分の中に強い芯をもたなくてはならない。
精神的には、研究者としての自己の能力を見極め、意識的に評価していくことだ。自分は何者なのかを認め、自分の直感を信頼し、研究を進めながらそれを深化させていく。
そして、「自分中心的な」考えかたとは、自分のアイディア、前提、関心事を重視することだ。それによって、研究する意義のある、自分にとって重要な問題をより上手に発見できるだろう。
自分中心的な研究者は、自己中心的なのではなく、むしろ自分をたえず反省し、自分に批判の目を向ける。一方で、他者の意見が妥当かどうか客観的に評価できる公平性と自信を持ちあわせ、常識に挑戦する能力もある。
自分中心的研究のゴールは、「この世界の一面について、実証的で、根拠があり、理論的に裏づけられた説得力のある研究成果を生み出すこと」だ。他者にとって本当に重要な問題を解決するためには、まずその問題が自分にとっても重要でなくてはならない。これこそが自分中心的研究の考えかたといえるだろう。
ちょっとした好奇心や思いつき、誰かから割り当てられた仕事などを「研究の焦点に据えてはいけない」のである。
研究にとりかかる際、最初に立ちはだかる難題は「テーマ」をいかに具体化し、「興味をそそる問いに落とし込むか」である。誰でも面白そうなテーマを見つけることはできるが、これを具体的な問いに変化させるのがもっとも難しい。
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