ゴールドマン・サックスは資本主義の本場である米国で、150年以上生き残ってきた名門証券会社である。M&A助言業務で常に世界トップクラスの実績を叩き出すだけでなく、これまでの複数の米国財務長官を輩出、「世界最強の投資銀行」「泣く子も黙るゴールドマン」と揶揄されることさえある。
これは徹底的な結果主義のなせる業であり、従業員は「Up or Out」(成長か退場か)という厳しい生存競争を余儀なくされる。日本社会ではクビになるということはセンシティブな話題だが、米国社会では解雇は日常茶飯事である。特にゴールドマン・サックスでは、「成長できないのであれば会社を去るしかない」という苛烈な競争環境が存在し、平均勤続年数は5年程度とも言われている。徹底的に結果にこだわる企業文化のもとで、常に120%の結果を出し続けることができなければ、「君にはもっと輝ける場所があるはずだ」と暗に諭されることになる。
著者はこのような環境のなか、営業部門の部長として会社の求める収益に対する責任を負いながらも「資本主義を使いこなし、持続可能な社会を次世代に残したい」という理想を抱いていた。ゴールドマン・サックスはある意味で資本主義の中心地である。そうした環境で、短期的な利益につながらない理想を叫び続けるのは不可能に近いことだった。それでも、著者は資本主義を使いこなすために、資本主義の中心で闘うことにこだわった。
著者は、資本主義に変わる新たな経済システムの構築が必要だとは考えていない。問題は資本主義の本質ではなく、使われ方にある。「ゲームのルールを変えられるのは、ゲームの勝者だけ」という信念のもと、資本主義の中心たるゴールドマン・サックスで闘い続けてきた。
結果として、著者は2023年6月にゴールドマン・サックスを去ることになったが、世界の持続可能性へ貢献したいという理想に変わりはない。本書では、20年以上資本主義の中心地で資本主義について考えてきた立場から、資本主義を持続可能なかたちで使いこなす方法を考えていく。
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