資本主義の中心で、資本主義を変える

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資本主義の中心で、資本主義を変える
出版社
NewsPicksパブリッシング

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出版日
2023年09月06日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

我々は資本主義が支配する世界を生きている。今となってはあまりにも当たり前すぎて、意識したことがない人も多いかもしれない。

かつて貴族のような支配階級がすべてを手にし、それを臣下に与えることで社会が成立していた時代があった。やがてそうした体制が崩壊すると、市民は財産を個人で所有し、その資本でさまざまな産業を作り、社会を発展させていくことになった。その歪みは社会主義と言われるような思想によって批判され、それが国際社会を二分し、世界が滅ぶ一歩手前までエスカレートした失敗を経て、我々の社会はできている。

我々が当たり前と受け止めているものは決して当たり前ではなく、さまざまな試行錯誤の歴史の中で、ベストではないかもしれないがベターな選択肢として選ばれてきたある可能性にすぎない。社会主義の実戦は結果としては成功しなかったが、かといって資本主義の歪みがすべて正されたわけではない。

著者は世界トップクラスの証券会社であるゴールドマン・サックスという資本主義の中心地で働いてきた。その目線から、資本主義という枠組みの重要性は認めつつも、資本主義の問題点と、これから向かうべき方向について真剣に考えていく。

資本主義は確かにベターなシステムではあるかもしれないが、決してベストではない。それをベストに近づけていくためのヒントが、本書には詰まっている。

ライター画像
池田明季哉

著者

清水大吾(しみず だいご)
1975年、愛媛県西宇和郡伊方町生まれ。2001年に京都大学大学院を卒業し、日興ソロモン・スミス・バーニー証券(現シティグループ証券)に入社。07年にゴールドマン・サックス証券に入社し、16年からグローバル・マーケッツ部門株式営業本部業務推進部長(SDGs/ESG担当)。社会の持続可能性を高めるためには資本主義の流れを変える必要があると考え、社会の価値観そのものを変えるべく啓発活動を推進。 23年6月、同社を退職。

本書の要点

  • 要点
    1
    資本主義は「所有の自由×自由経済」による優れたシステムだが、使われていくうちに成長の目的化、会社の神聖化、時間軸の短期化といった思想を帯びてしまったことで暴走している側面がある。
  • 要点
    2
    日本の資本主義では、忖度により適切な経営が行われていないケースが多い。特に、過度に安定株主を求める傾向は鎖国に近いものである。
  • 要点
    3
    健康な企業活動のためには、株主が企業に倫理を含めた長期的な視座を求め、企業がそれに応えて信頼関係を結ぶという適切な緊張感が重要である。

要約

資本主義を疑うからこそ、資本主義の「中心」へ

Up or Out(成長か退場か)の世界で
Nikada/gettyimages

ゴールドマン・サックスは資本主義の本場である米国で、150年以上生き残ってきた名門証券会社である。M&A助言業務で常に世界トップクラスの実績を叩き出すだけでなく、これまでの複数の米国財務長官を輩出、「世界最強の投資銀行」「泣く子も黙るゴールドマン」と揶揄されることさえある。

これは徹底的な結果主義のなせる業であり、従業員は「Up or Out」(成長か退場か)という厳しい生存競争を余儀なくされる。日本社会ではクビになるということはセンシティブな話題だが、米国社会では解雇は日常茶飯事である。特にゴールドマン・サックスでは、「成長できないのであれば会社を去るしかない」という苛烈な競争環境が存在し、平均勤続年数は5年程度とも言われている。徹底的に結果にこだわる企業文化のもとで、常に120%の結果を出し続けることができなければ、「君にはもっと輝ける場所があるはずだ」と暗に諭されることになる。

著者はこのような環境のなか、営業部門の部長として会社の求める収益に対する責任を負いながらも「資本主義を使いこなし、持続可能な社会を次世代に残したい」という理想を抱いていた。ゴールドマン・サックスはある意味で資本主義の中心地である。そうした環境で、短期的な利益につながらない理想を叫び続けるのは不可能に近いことだった。それでも、著者は資本主義を使いこなすために、資本主義の中心で闘うことにこだわった。

著者は、資本主義に変わる新たな経済システムの構築が必要だとは考えていない。問題は資本主義の本質ではなく、使われ方にある。「ゲームのルールを変えられるのは、ゲームの勝者だけ」という信念のもと、資本主義の中心たるゴールドマン・サックスで闘い続けてきた。

結果として、著者は2023年6月にゴールドマン・サックスを去ることになったが、世界の持続可能性へ貢献したいという理想に変わりはない。本書では、20年以上資本主義の中心地で資本主義について考えてきた立場から、資本主義を持続可能なかたちで使いこなす方法を考えていく。

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要約公開日 2023.12.09
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