ほとんどの人は、ポジティブな感情を歓迎する一方、ネガティブな感情を遠ざけようとする。だが実は、ネガティブな感情が少なすぎるのもよくない。
恐怖心があるからこそ、私たちは炎上する建物から逃げ出し、蛇を踏まないように慎重に歩く。嫌悪感をいだくからこそ、有毒なものを避け、悪しき振る舞いを躊躇する。ネガティブな感情をいだく能力がなければ、人類はここまで生き延びていなかっただろう。
悲しみ、侮蔑、罪悪感……ネガティブな感情にはさまざまな種類があるが、それぞれを見ていくと、ある感情が最も強力で最もしばしば発生することに気づく――後悔だ。後悔は、人間を人間たらしめるものであると同時に、人間をよりよい人間にする感情である。
人は2種類の能力があるからこそ、後悔を感じる。脳内で過去と未来を訪ねる「タイムトラベル力」と、実際に起きていないことをストーリーとして語る「ストーリーテリング力」だ。
たとえば、著者らの調査に対して次のように打ち明けた人がいる。「大学院の学位を取得すればよかったと思っています。当時の私は父親の願望を受け入れて、大学院を中退してしまったのです。学位を取得していれば、私の人生の軌跡は違うものになっていたでしょう。もっと満足感と充実感、そして達成感を味わえたはずです」
この人は後悔の念を吐露するとき、素早く頭を回転させている。まず、学業と職業の進路を検討していた日々にタイムトラベルする。そして、父親の望みに従ったという事実をなかったことにし、大学院で学ぶというシナリオを思い描いたあと、再びタイムマシンに乗って現在へ戻る。その世界には自分の希望どおりの人生が待っており、満足感と充実感と達成感を味わえる――。こうしたタイムトラベルとストーリーテリングの能力は、成熟した人間だけがもっているものだ。
研究によると、後悔の感情に適切に対処すれば、3つの大きな恩恵が得られる。
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