私たちはみな、外向きの顔を作りながら、実際にはさまざまな葛藤を抱えて生きている。それは、歴史に名を残す人物とて同じである。
心の問題に対する私たちの認識は、科学の進歩によって劇的に変わった。かつては電気ショックなどの荒療治が施されてきたが、20世紀に入り、さまざまな療法や向精神薬が用いられるようになった。今では脳と心の間には密接な関係があることがわかり、科学者たちは心の病を生物学的に解明しようとしている。
本書では「心の病」と生きた古今の著名人12名を取り上げ、現代精神医学の観点から心の問題を探っていく。診断の基準はアメリカ精神医学会が発行している『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』という手引書を参考にし、神経科学者や精神科医、臨床心理士などの専門家にも意見を仰いだ。
本要約では、マリリン・モンロー、ドストエフスキー、アインシュタインの3名を紹介する。
1962年5月19日のマディソン・スクエア・ガーデン、マリリン・モンローはジョン・F・ケネディ大統領の45歳のチャリティー祝賀会に出演した。眩いドレスに身を包んだモンローは、輝くスポットライトの下で歌い始めた。「ハッピーバースデー、トゥーユー。ハッピーバースデー、ミスター……プレジデント」。
このパフォーマンスによって、モンローの「セックスシンボル」「頭の悪い金髪」というイメージが決定的なものとなり、アメリカの文化史に残る一場面となった。ケネディ大統領は「もう政治の世界から引退してもいいくらいだ」と喜んだ。
だがこの祝賀会から3カ月後、モンローは36歳でこの世を去ってしまう。
モンローは華々しい活躍の裏で、常に苦悩と複雑さを抱え、愛情と心の安定を求めていた。彼女は「境界性パーソナリティー障害」を患っていたと考えられる。
この障害は「神経症」(うつや不安)と「精神病」(統合失調症や妄想性障害)の2つの「境界線上」にあり、どの診断カテゴリーにも当てはまらず、虚無感、アイデンティティーの分裂と混乱、激しい感情の起伏、不安定な対人関係などの症状が見られる。彼らは安心感を求めるがうまくいかず、モンローもその例に漏れなかった。
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