花の都ヴェローナ。そこには古くから憎み合う二つの名家、モンタギュー家とキャピュレット家があった。
ある日、街で遭遇した両家の召使いたちは、互いを罵り合い、ついには剣を抜き大乱闘を引き起こした。この騒ぎにヴェローナの大公は、両家に対してこう宣告した。「キャピュレット、モンタギュー、そなたたちの争いは我が街の平安を乱している。次に騒動を起こしたら死刑に処する!」
モンタギュー家には若き御曹司がいた。名前はロミオ。ロミオは報われない恋に悩み、いつも物憂げな顔をしている。友人のベンヴェーリオは彼をなんとか励まそうとするが、ロミオの心はなかなか晴れない。
その頃キャピュレット家には、大公の親戚である青年貴族・パリスが訪れていた。パリスは前々からキャピュレット家の一人娘・ジュリエットに結婚の意を申し入れていた。だがジュリエットは14歳にも満たず、父親のキャピュレットは娘が幼すぎることを心配していた。しかしようやく意を決して、「今夜、我が家で開く舞踏会で娘を口説かれよ」とパリスに伝えた。
ベンヴェーリオはロミオの心を癒すため、キャピュレット家の舞踏会に忍び込もうと持ちかける。ロミオは「何やら悪いことが起きる予感がする」と不安を覚えるが、しぶしぶついて行くことにした。
舞踏会では、キャピュレット家の面々が招待客を出迎えていた。物陰に隠れて様子を伺っていたロミオは、踊っている一人の少女に目を奪われた。「まるでカラスの群れに舞い降りた純白の鳩」のように美しい少女は、たちまちロミオの心を掴んでしまった。
ロミオは少女に近づき、優しく手を取った。
「この卑しい手が聖なる御堂を汚すなら、優しい罪はこれ、私の唇で手荒な手の跡を清めましょう」
「巡礼の方、それではあなたの手がかわいそう。聖者の手は巡礼の手が触れるためにあります。手のひらの触れ合いは巡礼たちの口づけです」
「聖者にも巡礼にも唇はあるのでは?」
「ええ、お祈りを唱える唇なら」
「いとしい聖者よ、それなら唇で祈りましょう。どうか信仰が絶望に変わりませんように……」
ロミオは少女にそっとキスをした。
そのとき、どこからか「お嬢様、お母様が呼んでいます」と声がした。少女の乳母のようだ。ロミオは乳母に「お母様とは誰か?」と尋ねると、「このお屋敷の奥様」だという。ロミオは仇敵・キャピュレットの娘、ジュリエットに恋をしてしまったのだ。
舞踏会の帰り道、ロミオはベンヴェーリオたちと分かれ、ひとりジュリエットの部屋の外に忍び寄った。窓からこぼれる光に胸をときめかせていたら、ついに「美しい太陽」がバルコニーに現れた。
「ロミオ、ああロミオ! あなたはどうしてロミオなの? どうかその名前を捨てて。それが叶わないなら、私を愛すると誓って。薔薇は薔薇でなくても甘い香りがするように、モンタギューでなくてもあなたはあなた。どうかロミオ、私のすべてを受け取って!」
身を隠していたロミオは、思わずこう言った。「すべてを受け取ろう!私のことは恋人と呼べばいい」
ジュリエットはその声に驚き、辺りを見回した。
「どうやってここへいらしたの? 私の家族に見つかったら、あなたは殺されてしまうわ」
「恋の翼で塀を飛び越えてきたのです。もしあなたに愛されないなら、いっそ命を断たれたほうがましです」
ジュリエットはロミオにこう答えた。
「さっきの言葉は嘘だと言いたい……でも、そんな慎みは捨てましょう。私、あなたに夢中なの!」
ふたりは互いの気持ちを確かめ合い、真実の愛を誓った。ジュリエットはロミオに「明日9時に使いを出す」と約束した。
翌朝ロミオはロレンスの庵を訪れ、ジュリエットと結婚することを伝えた。ロレンスは年老いた修道僧で、かねてからロミオの恋の相談相手だ。少し前には別の恋人に熱をあげていたのに、もう心変わりするとは……!しかも相手はキャピュレットの令嬢だ。ロレンスは恋に浮かれるロミオに冷静になるよう諭すが、まったく耳に入らないようだ。
ロミオは「あとは神父様のお力で、神様の前で結ばれるだけです。どうか私たちを結婚させてください」と、ロレンスに結婚の許しを乞うた。
一方ジュリエットは、乳母を使いとしてロミオのもとへ向かわせていた。ロミオは乳母に「今日の午後、ロレンス神父の庵へ出かけること。そこで結婚式を挙げよう」と言づけた。
乳母からロミオの伝言を聞いたジュリエットは、大喜びで家を飛び出した。神父は再会を喜ぶふたりを教会に連れて行き、結婚の儀式の準備を始めた。
その日は格別に暑かった。街の広場でベンヴェーリオたちがたむろしていたら、キャピュレット家の男衆が現れた。ジュリエットの従兄弟で血の気の多いティボルトは、この間の乱闘騒ぎを大きくした張本人である。ティボルトはロミオの親友で気性の荒いマキューシオを挑発し、ふたりは一触即発となった。
そこにロミオが登場する。ロミオは「今はキャピュレットを自分の名前と同じくらい大事に思っている」「大公の命令を忘れたか?」と仲裁に入ったが、ついに闘いが始まってしまった。ほどなくしてマキューシオはティボルトに刺され、命を落とす。親友を殺されたロミオは我を忘れて剣を抜き、ティボルトを殺してしまう。
ロミオは情状酌量によって死刑は免れたが、ヴェローナからの追放が命じられた。
大公からの「追放令」を知ったロミオは悲嘆にくれた。「これではジュリエットに会えなくなってしまうではないか、いっそ死刑になったほうがましだ」
自身の不幸を嘆き自殺しようとするロミオに、ロレンスは「お前のジュリエットはまだ生きている、それは幸運なことではないか」となだめ、ある提案をした。それは、マントヴァへ行って身を潜め、その間に神父はタイミングを見計らってロミオとジュリエットの結婚を公にし、両家を和解させようというものだった。
ロミオはその晩ジュリエットのもとを訪れ、束の間の逢瀬を交わす。ふたりは再会を誓い合い、ひばりが鳴く頃、ロミオはマントヴァへ発った。
ジュリエットとパリスの婚礼の話は裏で着々と進んでいた。ジュリエットの母は娘の寝室を訪れ「嬉しい話があるわ。おめでたい日が決まったの」と言った。今週木曜の朝、聖ペテロ教会でパリスとの結婚式が執り行われるというのだ。
ジュリエットは取り乱し、「私はまだ結婚しない! 私が結婚するのは憎んでも憎みきれないロミオだけ!」と言い放つ。これを聞いた父は怒り狂い、ふたりは決裂してしまう。
ジュリエットはどうにかパリスとの結婚を阻止しようと、ロレンス神父に泣きついた。しばし考えたロレンスは小瓶を持って来て、ジュリエットにこう言った。
「まず一旦は、親の言うとおりにパリスとの結婚を承諾すること。そして水曜の夜、床につく前にこの瓶に入っている薬液を飲みなさい。飲むとたちまち脈も呼吸も止まり、お前は仮死状態となる。木曜の朝に花婿が迎えに来たときには、ベッドで死んでいるのだ」
仮死状態は42時間続くという。その間に神父はロミオに手紙を出し、キャピュレット家の霊廟で「眠っている」ジュリエットを迎えに来させて、ふたりは晴れてマントヴァへ行くという算段だ。
ジュリエットはこの案を喜んで承諾し、小瓶を持って家路についた。
ジュリエットは神父に言われたとおり、父に謝罪して結婚を受け入れると伝えた。そして水曜の晩、寝室にひとりになったジュリエットは不安と恐怖に震えながら、例の薬液を飲み干した。「ロミオ、ロミオ! さあひと息に、あなたのために」
翌朝、屋敷では慌ただしく婚礼の準備が進められていた。乳母はジュリエットを起こすため、いつものように寝室へ入り天蓋を引き開けた。
「ああ、なんてこと! お嬢様が亡くなっている!」
突然の不幸に家族は嘆き悲しみ、「死神の手で葬り去られた」「今日は忌まわしい呪いの日だ」と混乱に陥った。婚礼のために呼ばれていたロレンス神父は、葬送の準備をするようキャピュレットに促した。
一方、マントヴァにいるロミオのもとにヴェローナから使者が訪ねて来た。ロミオの従者、バルサザーだ。ジュリエットの様子を気にかけるロミオに、バルサザーはこう答えた。「確かにご無事です。亡骸はキャピュレットの霊廟にお休みですし、魂は天使たちのもとへ行かれましたから」
ロミオはすぐさま馬に飛び乗り、ヴェローナへ向かった。途中、薬屋に立ち寄り毒薬を手に入れて。
葬儀を終えたロレンスのところに修道僧ジョンが訪れた。「マントヴァからよく戻られた。ロミオは何と言っておったか?」と尋ねるロレンスに、ジョンは「トラブルに見舞われて、結局マントヴァには行けませんでした」と言う。ロミオに届けるはずの手紙は、ジョンが持ったままだった。
ロミオはジュリエットの墓前に到着すると、そこには花を手向けに来たパリスがいた。パリスはロミオを捕まえようとして揉み合いになり、結局ロミオに殺されてしまう。
ロミオは死してなお美しいジュリエットに見惚れ、妻の死を悼み悲しんだ。ロミオは「いつまでも君のそばにいる」と毒薬を一気に喉に流し込んだ。ロレンスが霊廟に駆けつけたとき、そこにはジュリエットの隣で息絶えたロミオと、血を流して死んでいるパリスが横たわっていた。
そのときだ。「神父様、あの人はどこ? 私のロミオはどこ?」ジュリエットが目を覚ましたのだ。もうすぐ夜警が来るから早く立ち去るようにと促すロレンスに、ジュリエットは言った。「どうぞおひとりで。私は行きません」
ロミオの唇はまだ微かに温かかった。夜警の声が徐々に近づいてくる。ジュリエットはロミオの短剣を取り、ひと息に自分の胸に突き刺した。
街中が騒然としていた。「ロミオ」と叫ぶ者、「ジュリエット」「パリス」と叫ぶ者が次々と霊廟に押し寄せた。従者とともに駆けつけた大公は、キャピュレット、モンタギューに説明を求めたが、両者とも我が子の不幸を相手のせいにするばかりだった。そこにロレンスが静かに口を開き、彼が知る限りの事のなりゆきをすべて話した。大公は若いふたつの命が失われた惨事を嘆き、みなに向かって大声で言った。
「キャピュレット、モンタギュー。見ろ、これがお前たちの憎悪に下された天罰だ。そして私も、お前たちの不和に目をつぶった罰として身内を失った。みな一人残らず罰を受けたのだ」
キャピュレットとモンタギューは互いの過ちを認め、手を取り合った。そして二度とこのような悲劇を起こさないことを誓い、ヴェローナにロミオとジュリエットの像を立てることにした。
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