山月記

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評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

文学作品に限らないことだが、触れるタイミングによって、受け手の印象は大きく変わるものだ。だが要約者の場合、『山月記』ほど大きく感じ方の変わった作品は他に記憶がない。

最初に読んだのは高校生の時だ。現代文の教科書に掲載されていたことを覚えている。「なぜか虎になってしまった秀才とその旧友が身の上話をする、切ないストーリー」という程度の認識であった。

だが今回、あらためて読んでみて驚いた。一文一文に深く共感するあまり、なかなか読み進まないのだ。「その声は、我が友、李徴子ではないか?」と問われてすぐに返事ができなかった気持ちも、「理由もわからずに押し付けられたものを大人しく受け取って、理由もわからずに生きていくのが、我々生きもののさだめだ」という言葉の意味も、最後に虎としての姿を見せた理由も、あれもこれも、自分ごとのように想像できてしまう。つい「自分だったらどうするだろう?」と、李徴や袁傪の立場になって考えもする。

大人として読んではじめて気づいたのは、1万字にも満たない短さでありながら、「己」という言葉が50回ほども登場していることだ。自分、自分、自分……という李徴の“こじらせ”具合を少しかわいく思えたのも、大人になったしるしなのかもしれない。

ともあれ、前途洋々のうら若き高校生に読み解かせようとするのは少々酷なストーリーである。酸いも甘いも噛み分けた大人の特権として、いまあらためて、多くの人に楽しんでもらいたい。

著者

中島敦(なかじま あつし)
1909年東京生まれの小説家。『山月記』が代表作。

本書の要点

  • 要点
    1
    秀才だった李徴は、妻子のために詩作の道をあきらめざるを得なかった。地方官吏の職に就き、かつて見下していた連中に使われる立場になって自尊心を傷つけられた挙句、とうとう失踪してしまった。
  • 要点
    2
    李徴の旧友・袁傪がある林を通った際、草むらから人食い虎が飛び出してきた。その虎は、尊大な自尊心ゆえ、虎の姿に変わってしまった李徴であった。
  • 要点
    3
    虎になった李徴の頼みは3つあった。これまで作った詩を後世に残してもらいたいということ、妻子に「李徴は死んだ」と伝えた上で、彼らが路頭に迷わないようにしてほしいということ、そして最後に虎としての自分の姿を見て、帰りは同じ道を通らないようにしてほしいということだ。

要約

傷つけられた自尊心

失踪

隴西(ろうせい)の李徴は秀才で、天宝の最後の年には若くして科挙に合格し、江南尉(こうなんい)という役職に就いた。だが彼の性格は頑固でひとりよがりで、その地位に甘んじることをよしとしなかった。すぐにその仕事から退いた後は、故郷の山に戻り、人との交流を絶ってひたすら詩作に熱中した。詩人としてその名を後世に残そうとしたのだ。

しかし、詩人として成功するのは簡単なことではなかった。生活は日ごとに苦しくなり、すっかり痩せ、かつての面影はどこにもなくなってしまった。

数年経つと、妻子の生活のためについに詩作の道をあきらめ、地方官吏の職に就いた。かつての同輩は既に遥か高位に進んでいる。彼が見下していた連中から命令されなければならない立場であることは、李徴の自尊心をいかに傷つけただろうか。

一年の後、仕事で旅に出て、汝水(じょすい)という川のほとりに泊まった晩、急に顔色を変えて寝床から起き上がると、訳のわからないことを叫びながらとび下りて、闇の中へと駆け出していった。その後李徴がどうなったかを知る者は誰もなかった。

【必読ポイント!】李徴の告白

邂逅
holwichaikawee/gettyimages

翌年、監察御史(かんさつぎょし)の仕事に就いていた陳郡の袁傪(えんさん)が嶺南に遣わされ、途中で商於という地に泊まったときのこと。

翌朝早くに出発しようとしたところ、駅吏から忠告を受けた。「これから先の道に人食い虎が出るので、お昼になるまで待ったほうがよろしいでしょう」と言う。ところが袁傪はその助言を聞かずに出発した。

残月の光をたよりに林中の草地を通って行った時、駅吏の言ったとおり、一匹の虎が草むらから飛び出した。虎はあわや袁傪に飛びかかるかと見えたが、たちまち身をひるがえして元の草むらに隠れる。草むらの中からは「あぶないところだった」という人間の声が聞こえた。

その声には聞き覚えがある。袁傪はとっさに叫んだ。「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

草むらから返事はなく、しのび泣きと思われる微かな声が時々洩れるばかりだ。ややあって、低い声が「いかにも自分は隴西の李徴である」と答えた。

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要約公開日 2024.02.24
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