笑いのある世界に生まれたということ
笑いのある世界に生まれたということ
笑いのある世界に生まれたということ
出版社
出版日
2023年10月18日
評点
総合
3.7
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

東大卒と中卒。そんなふうに紹介される本書の共著者である中野信子氏と兼近大樹氏の出会いのきっかけは、テレビ番組での共演だった。経済的に困窮した家庭に育った兼近氏は、夜間定時制高校を中退し、最終学歴が中卒である。勉強し直したいと考えていた兼近氏に、中野氏が高卒認定試験の受験を勧めて背中を押した。その縁で、家庭教師と生徒という関係になったという。

本書は2人の対話を通じて、人間にとっての「笑い」とは何なのかという命題に向き合っていく。さらに、「お笑い」の範囲を拡張し、困難で不確実な状況を生き延びるためのスキルを兼近氏に学ぶという裏テーマもある。「笑い」が健康にいいということは知られているが、「笑い」は提供する側にとってどんな意味をもつのか。「笑い」を生業とする芸人のスキルやセオリーを垣間見ながら、脳科学の観点からの分析にも触れることができる。普段あまり意識することのない「笑い」がいかに人間にとって重要なのかを再認識するとともに、笑いのプロである芸人のスキルに感服させられる一冊だ。

笑いを引き起こす芸人のスキルの裏側を知ると、芸人の言動の表面をなぞるだけではおもしろい人にはなれないということがよくわかる。本人たちとしてはおもしろいことを共有しているつもりが、炎上につながるという例もSNSでよく見かけるようになった。炎上とまではいかなくても、おもしろいことを言うつもりで余計なことを言ってしまったという経験は誰にでもあることだろう。「お笑い」に興味がないという人にも、広くおすすめしたい一冊だ。

ライター画像
鈴木えり

著者

中野信子(なかの のぶこ)
1975年、東京都生まれ。脳科学者、医学博士、認知科学者。東京大学工学部応用化学科卒業。同大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務後、帰国。現在、東日本国際大学教授。著書に『空気を読む脳』(講談社+α新書)、『ペルソナ 脳に潜む闇』(講談社現代新書)ほか多数。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。

兼近大樹(かねちか だいき)
1991年、北海道生まれ。お笑いコンビ「EXIT」として活動し、テレビのレギュラー番組多数、全国で単独ライブを開催。また、音楽活動やファッションブランドのプロデュースも行っている。俳優として連続ドラマ・映画に出演。自伝的小説『むき出し』(文藝春秋)で作家デビュー。

本書の要点

  • 要点
    1
    「笑い」には、人工的な薬と同様の効能がある脳内ホルモンを分泌する機能がある。「笑い」は過酷な現実を生き延びるための「Happy Pills」であり、人々はお金を払ってでも笑いたいのだ。
  • 要点
    2
    「笑い」が起こるセオリーには、「緊張と緩和」理論・「裏切り」の理論・「共感」の理論の3つがある。セオリーに則って芸人が「イジる」ことでおいしくなるが、下手をすると「イジメ」に見えるおそれがある。
  • 要点
    3
    お笑い芸人は、かつて他に職業的選択肢がない人が飛び込む場所であったように思われるが、今は頭の良い人たちが芸人を目指すようになり、学歴も偏差値も関係なくなっている。

要約

お金を払ってでも笑いたい

「笑い」はHappy Pills

中野氏はまず、「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2023」のメインプログラムのひとつである「Happy Pills」という展示を紹介する。これは写真家のパオロ・ウッズとジャーナリストのアルノー・ロベールが世界各地を回り、現代人がいかに薬を使っているかを調べた成果である。

中野氏が特に印象的に感じたのが、「世界幸福度ランキング」の上位と「抗うつ剤の最多消費国」ランキングの相関をとった表だ。これを見ると、人々が幸せに暮らしている国では、同時に抗うつ剤が大量に消費されていることがわかる。その意味を考えるとぞっとすると中野氏は語る。

そういう薬を服用しないと人は幸せになれないというわけではない。人の脳内ホルモンにあるベータエンドルフィンというホルモンは、幸福感をもたらすと同時に、モルヒネの数倍強いといわれる鎮静作用を持っている。この分泌を促す仕組みのひとつに、「笑い」がある。笑うと幸せを感じられ、痛みが軽くなり、気持ちが楽になる。それを経験的に知っているからこそ、人は昔からお金を払ってでも「笑い」の場を求めてきたのだろう。「笑い」は過酷な現実を生き延びるための「Happy Pills」たりうる。

笑いを読み解く能力がある
sanjagrujic/gettyimages

お笑いは、人間社会のしんどい部分を拾ってネタにする方がやりやすいのか。中野氏がそう問いかけると、兼近氏はそれを肯定しつつも、観客サイドの情報を読み解く力、リテラシーが高くなければ笑えないという側面があると語り出す。

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要約公開日 2024.03.07
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