脳はどこまでコントロールできるか?

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出版社
ベストセラーズ

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出版日
2014年08月28日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

本書は読んだ直後から使える実践的で役立つ内容が豊富に盛り込まれている。脳科学というとやや取っつきにくい印象もあるが、その第一線で活躍する著者が、脳の働き、脳の錯覚についてさまざまな研究結果や事例とともに解説し、非常に説得力がある。著者は脳科学者でありながら、認知科学者で医学博士、テレビコメンテーターも務め、著作も多いマルチな才能を発揮する中野信子氏だ。

学術書や専門書のように難しい内容を書き連ねてあるわけではなく、具体的なエピソードが満載で読み進めやすい。紹介されているエピソードやたとえが面白く、記憶に残りやすいため、日常生活でもふとした時に取り組めるはずだ。要約者にとっては、序盤に書かれている成功者のエピソードは強烈に印象に残った。また、各トピックの最後にまとめられた研究結果をどのように日常生活に取り入れたらいいかというアドバイスも、実践してみようと背中を押してくれる。

「できるだけ日常の現象を中心に取り上げ、脳の生理的な構造や機能から解説することを心掛けた」との言葉で締めくくられる本書。その一文の通り、脳と人間の行動の不思議や神秘が感覚的に理解できる、そんな1冊である。

ライター画像
河合美緒

著者

中野信子(なかの のぶこ)
脳科学者、医学博士、認知科学者。1975年、東京都生まれ。東日本国際大学客員教授。高IQ国際組織「MENSA」元会員。東京大学工学部応用科学科卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて博士研究員として勤務(2008年~2010年)。現在、脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行っている。科学の視点から人間社会で起こり得る現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。多数のテレビ番組でコメンテーターとしても活躍中。

本書の要点

  • 要点
    1
    自分を大事にしている人は、ほかの人からも大事にされる。一方、自分を粗末に扱っている人は、他人からも粗末に扱われやすい。
  • 要点
    2
    脳には「ゲシュタルト知覚」と呼ばれる「物事にパターンを見出したがる」という性質がある。これにより、相関関係と因果関係を混同すると、実際の原因ではないものを誤認する恐れがある。
  • 要点
    3
    脳がつくり出す世界はとても強力で、人間は自ら抱く妄想から抜け出しにくいという性質を踏まえることが大切である。

要約

妄想のすすめ

成功者は妄想する
da-kuk/gettyimages

著者が最初に紹介するのは、妄想力で成功したアメリカの実業家レイ・クロックである。彼は52歳で、マクドナルド兄弟からハンバーガーショップの権利を買い取り、フランチャイズ展開を行った人である。生涯で5億ドルの富を稼いだとされる。

レイは空想ばかりする少年で、あだ名は「夢見るダニー」であった。夢を見るばかりでなく、夢、妄想を実現しようと努力する少年でもあった。

彼は色々な職業を経た後、ミキサーの販売代理店の経営者となったが、ミキサーを売り込むために訪ねたのがマクドナルド兄弟のハンバーガーショップであった。

ここで、レイはこのハンバーガーショップをチェーン展開したら大成功する、というアイデアを思いつき、妄想力でその成功を脳内に夢見る。しぶるマクドナルド兄弟を口説き落として、できたのがマクドナルドチェーンなのである。52歳という年齢について、新しいことを始めるのには遅いと考える人も多い中、レイは妄想することをやめず、夢を見続けた。

そんなレイ・クロックが、第1次世界大戦で従軍した同じ部隊には、ウォルト・ディズニーというもう1人の妄想の達人がいた。ディズニーの作った傑作アニメ映画自体も妄想の産物であるし、夢の国そのものを現実化したディズニーランドは「妄想の具現化」ともいうべき作品であった。そこに訪れる人は皆、「彼の夢を共有して、満足して帰る」。妄想で世界中を喜ばせたのがディズニーである。

次に紹介されているのが、大富豪エドモンド・ベンジャミン・ジェームズ・ロスチャイルド男爵の夫人となったナディーヌ・ロスチャイルドである。彼女は、貧しい家庭に育ち、中学卒業と同時に様々な仕事をして、やがて小劇場の女優となる。特別大人気スターというわけでもなかった彼女がロスチャイルド男爵と出会い、求婚されたのである。彼女は著書の中で「あなたがまず心を配るべきなのは、自分自身です。」と語っており、ひとり暮らしだとしても部屋をきれいにし、お茶を飲む際はいちばん上等なカップを使い、夕食をとる時にはお花やデザートを買うように、とアドバイスしている。つまり「自分で自分を好きになれるよう、自分自身に心を配る」べきだと説いた。著者はこれこそ「妄想の技術の真髄」だという。

自分自身を大切にする

大成功を生むのは、小さな信頼の積み重ねや良好な人間関係によるところが大きい。重要なのは、「自分を大事にしている人は、ほかの人からも大事にされ」、「自分を粗末に扱っている人は、他人からも粗末に扱われる」ということである。これは心理学の「割れ窓理論」と近い。

人は、「秩序の乱れがあると、それに同調してしまうという性質」がある。整備された清潔な道にゴミを投げ捨てるのは抵抗があるが、すでにゴミが落ちているような道になら、自分も捨ててもいいだろうと思いやすい性質である。

同様に、人は自分を大切にしている人を粗末に扱うことには抵抗を感じるが、自分を粗末に扱っている人は粗末に扱ってもよい気になってしまう。つまり、良好な人間関係を築き、成功を手に入れるためには、まず、自分で自分を大切にする必要がある。

自分を大切にするのが難しいと感じるときは、鏡を見て、自分のことを褒めるようにする。気に入っているところだけでなく、嫌なところもあえて褒めるようにする。妄想力の使いどころである。

自分を大切にできる回路ができたら、そこから人生が変わっていく。自分を大切にしてくれる人がきっと現れるようになる。

【必読ポイント!】 脳は錯覚する

二重の意思決定回路
Ilya Lukichev/gettyimages

脳はいかに錯覚しやすいか。さまざまな研究結果はそのことを示唆している。

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要約公開日 2024.03.17
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