著者が最初に紹介するのは、妄想力で成功したアメリカの実業家レイ・クロックである。彼は52歳で、マクドナルド兄弟からハンバーガーショップの権利を買い取り、フランチャイズ展開を行った人である。生涯で5億ドルの富を稼いだとされる。
レイは空想ばかりする少年で、あだ名は「夢見るダニー」であった。夢を見るばかりでなく、夢、妄想を実現しようと努力する少年でもあった。
彼は色々な職業を経た後、ミキサーの販売代理店の経営者となったが、ミキサーを売り込むために訪ねたのがマクドナルド兄弟のハンバーガーショップであった。
ここで、レイはこのハンバーガーショップをチェーン展開したら大成功する、というアイデアを思いつき、妄想力でその成功を脳内に夢見る。しぶるマクドナルド兄弟を口説き落として、できたのがマクドナルドチェーンなのである。52歳という年齢について、新しいことを始めるのには遅いと考える人も多い中、レイは妄想することをやめず、夢を見続けた。
そんなレイ・クロックが、第1次世界大戦で従軍した同じ部隊には、ウォルト・ディズニーというもう1人の妄想の達人がいた。ディズニーの作った傑作アニメ映画自体も妄想の産物であるし、夢の国そのものを現実化したディズニーランドは「妄想の具現化」ともいうべき作品であった。そこに訪れる人は皆、「彼の夢を共有して、満足して帰る」。妄想で世界中を喜ばせたのがディズニーである。
次に紹介されているのが、大富豪エドモンド・ベンジャミン・ジェームズ・ロスチャイルド男爵の夫人となったナディーヌ・ロスチャイルドである。彼女は、貧しい家庭に育ち、中学卒業と同時に様々な仕事をして、やがて小劇場の女優となる。特別大人気スターというわけでもなかった彼女がロスチャイルド男爵と出会い、求婚されたのである。彼女は著書の中で「あなたがまず心を配るべきなのは、自分自身です。」と語っており、ひとり暮らしだとしても部屋をきれいにし、お茶を飲む際はいちばん上等なカップを使い、夕食をとる時にはお花やデザートを買うように、とアドバイスしている。つまり「自分で自分を好きになれるよう、自分自身に心を配る」べきだと説いた。著者はこれこそ「妄想の技術の真髄」だという。
大成功を生むのは、小さな信頼の積み重ねや良好な人間関係によるところが大きい。重要なのは、「自分を大事にしている人は、ほかの人からも大事にされ」、「自分を粗末に扱っている人は、他人からも粗末に扱われる」ということである。これは心理学の「割れ窓理論」と近い。
人は、「秩序の乱れがあると、それに同調してしまうという性質」がある。整備された清潔な道にゴミを投げ捨てるのは抵抗があるが、すでにゴミが落ちているような道になら、自分も捨ててもいいだろうと思いやすい性質である。
同様に、人は自分を大切にしている人を粗末に扱うことには抵抗を感じるが、自分を粗末に扱っている人は粗末に扱ってもよい気になってしまう。つまり、良好な人間関係を築き、成功を手に入れるためには、まず、自分で自分を大切にする必要がある。
自分を大切にするのが難しいと感じるときは、鏡を見て、自分のことを褒めるようにする。気に入っているところだけでなく、嫌なところもあえて褒めるようにする。妄想力の使いどころである。
自分を大切にできる回路ができたら、そこから人生が変わっていく。自分を大切にしてくれる人がきっと現れるようになる。
脳はいかに錯覚しやすいか。さまざまな研究結果はそのことを示唆している。
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