最初に紹介する問題は、「大学1年生が、英語留学を考えています。留学先に相応しい国はどこか?」だ。
「考える力」を学ぶときは、状況が詳しく示されていない「一行問題」が適している。背景や状況の前提条件が少ない問題は、思考のスキルがないと考えを深めることができないからだ。
この問題で注目すべきは、大学2年生、3年生、4年生でもなく、「大学1年生」という点だ。それを思考の中心に据えて、具体的に「大学1年生」を想像してみる。以下のように、「大学1年生といえば」と自分勝手に状況を置いて、深く考える「思考環境」を整えるのだ。
・4月に入学し、体育会系の部活も、就活を考えるとそそられるけど、世にいう「モラトリアム」な大学生活だから、サークル活動で青春を謳歌する。
・授業のサボり方も当然、まだわからないから、出席マストだろうが関係なく、出席をする生活が始まる。夏にもなると慣れてきて、「何かを学ぶ」という崇高なる論点はどこかにいき、「単位をとれればいい」という日本の典型的大学生になっていく。
・「練習」よりも「飲み会」に軸足があるサークルを選択し、夏休みにはサークル合宿がある。友達ができるのもこれからなので、サボりづらいし、仲間外れは嫌だから参加したい。
・そのためにも、人生初のバイトを入学と同時に探し始め、週2~3日のバイトをし、日々の遊び代を稼ぐ。
・サークル活動をはじめとして、新しいコミュニティの中で「自分のポジション」を確立せねばならないから、「英語留学の時期はおのずと冬・春休み」。
・加えて、留学費用/海外での遊び代を稼ぐ期間も必要だから、やはり、「英語留学の時期はおのずと冬・春休み」が濃厚。
・実際、1年生が終わる「3月」に照準を合わせると、11ヶ月で、毎月3万円貯めれば、33万円でいけそうだし、両親に半分出してもらえれば、予算は50万円。
「大学1年生」について深く考え、具体的に自分勝手に状況を置いて想像してみると、見えてくることが多い。仮定した状況が間違っていても構わない。想像するプロセスにより、検討すべきポイントが洗い出せるはずだ。
具体的には「大学になじむ期間が必要だし、『サボりながら』単位を取るやり方もまだわからないし、なにより、留学費用の工面も考えねばならないこと」といった、この問題で意識すべきポイントが見えてくること自体が価値となる。それをあぶりだす、その深さまで考えることが目的であり、そのために状況などを勝手に置くのだ。
次に模範解答と同様に大事な、「模範誤答例」の一部を提示する。「ここは思考が浅い、思考パスを飛ばしている」とつっこみながら、「模範誤答例」を読むのが戦略思考を学ぶポイントだ。そうすることで、模範解答を学ぶのと同じくらい深い学びを得ることができる。
「思考パス」とは、「あれから考えて、その次にこれを考えて、その次は……」という「考えるべきこと」の連なりを指す。
模範誤答例では、「英語留学の期間は、短期の1ヶ月から比較的長期の6ヶ月以上がある。時間的制約がない大学1年生であれば、6ヶ月以上の英語留学を選択する」という記述がある。しかし、大学1年生と自分勝手に状況を置いて思考を回していれば、「時間の制約がない」とは判断しないはずなのでリアリティが薄いことによる思考の浅さに気づけるはずだ。
自分でモノゴトを考えるときも、自分でつっこみを入れ、思考を深くする感覚を身に付けよう。
3,400冊以上の要約が楽しめる