晴れ、そしてミサイル

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晴れ、そしてミサイル
出版社
ディスカヴァー・トゥエンティワン

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出版日
2023年10月20日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

「戦争」と聞くと、悲惨な光景ばかりが思い浮かぶ。ロシアによるウクライナ侵攻にかんする報道では、破壊された灰色の街や、悲しみに暮れる人たちが並び、日常は消し去られてしまったように見える。そんな場所へ向かう戦場カメラマンは、どれほど危険な仕事なのだろうか。あの場所で一般市民はどうやって生きているのだろうか。

こんな戦争のイメージが、本書『晴れ、そしてミサイル』を読むと、変わってしまう。約30年にわたって世界の紛争地を取材してきた戦場カメラマン・渡部陽一氏は、「戦争は日常の中にある」というのだ。ウクライナにもすでに何度も足を運んでいるという氏は、そこで柔らかな日常をおくる人たちの姿を目にしてきた。戦時下であっても、常にすべての場所が緊迫しているわけではなく、戦いと日常が共存しているのだ。日本に住む人たちがおくっているのと、なんら変わりのない毎日を過ごすウクライナの人たち。その様子を知ってから改めてウクライナ侵攻の被害を見ると、戦争のむごさが際立ってくる。

戦争が起こっている国でも、日常がある。それを知ると、戦争は遠い国で起きている悲惨な事件ではなく、わたしたちの住んでいる国と地続きのできごとになる。そして渡部氏はこうも言う。戦いという形で表出していないだけで、「見えにくい戦争」はどこにでもある。もちろん日本も例外ではない。

わたしたちがみな同じ「戦争という日常」を生きているとしたら、平和のために何ができるだろうか。渡部氏の描き出す戦争の本当の姿から、考えていきたい。

ライター画像
池田友美

著者

渡部陽一(わたなべ よういち)
1972年、静岡県生まれ。明治学院大学法学部法律学科卒業。
学生時代から世界の紛争地域を専門に取材を続ける。戦場の悲劇、そこで暮らす人々の生きた声に耳を傾け、極限の状況に立たされる家族の絆を見据える。イラク戦争では米軍従軍(EMBED)取材を経験。これまでの主な取材地はイラク戦争のほかルワンダ内戦、コソボ紛争、チェチェン紛争、ソマリア内戦、アフガニスタン紛争、コロンビア左翼ゲリラ解放戦線、スーダン・ダルフール紛争、パレスティナ紛争、ロシア・ウクライナ戦争など。

本書の要点

  • 要点
    1
    戦争というと、戦争映画のような光景が思い浮かぶかもしれない。だが、実際の戦争では、戦いとふつうの日常が共存している。悲惨な戦地の姿がある一方で、柔らかな日常が存在するのだ。
  • 要点
    2
    「戦い」という形で露出していないだけで、衝突の火種はそこかしこにある。「見えにくい戦争が起きている」と考えれば、みなが「戦争という日常」を生きていることになる。
  • 要点
    3
    家族が寄り添い、共に暮らす姿は、世界共通の光景だ。そうした日々を大切にすることが平和のためにできる、大切な一歩となる。そう信じて、著者は世界中の家族の姿を撮影し続ける。

要約

【必読ポイント!】 戦争は日常の中にある

キーウの駅で抱き合う家族
キーウ中央駅での再会場面(撮影:渡部陽一)

2022年9月、ウクライナの首都中心部にあるキーウ中央駅。巨大な駅のプラットホームには、大切な人の帰りを待つ人たちがいた。ホームにいるのはみな、18歳から60歳の男性だ。彼らは戦時下のウクライナで戦闘要員の対象となり、出国を禁止されていた。ホームで再会した家族や恋人たちは、抱き合い、涙を流し、キスをして、記念写真を撮影している。

戦場カメラマンである著者の渡部陽一氏が4度目のウクライナ取材で見たのは、日常が戻ってきたキーウの街だった。2022年2月にロシア連邦がウクライナへの軍事侵攻を開始してから半年以上が経っていた。ウクライナの東部では激戦が続いていたが、この頃になるとキーウのショッピングモールでは多くの店が営業を再開し、休日の店は買い物客で溢れていた。朝の公園でランニングをし、仕事へ向かい、お昼はおしゃれなカフェでランチ。帰宅したら家族と散歩して、夜はレストランで食事をする。人が戻ってきた街は再会の喜びに溢れ、家族や友人と過ごす時間を大切にする、ウクライナの日常がそこにはあった。

戦争とふつうの日常が共存する日々

翌月の10月10日、キーウ中心部でミサイル攻撃と見られる爆発が起きた。一般市民がごく普通の日常を過ごしていた場所に、ミサイルが撃ち込まれたのである。

それは報復攻撃であった。2日前に「クリミア大橋」で爆発があったことをプーチン大統領は「ウクライナ特務機関によるテロ」と断定し、ウクライナ市民が徐々に帰国しているキーウ中心部や地方都市を攻撃したのである。

戦争というと、戦争映画のように、跡形もなく荒廃した道を戦車が行き交い、武装した兵士が銃を構え合う、緊迫した場面ばかりが思い浮かぶかもしれない。ところが、戦場カメラマンである著者が戦争が起きている国に到着すると、あまりに普通の日常が広がっていて、拍子抜けすることが多いという。戦争の最中でも、どこもかしこも緊迫しているわけではなく、戦いとふつうの日常が共存している。だからこそ、戦時下で人々は生きていける。そして、戦争は長引く。

悲惨な戦地の姿がある一方で、柔らかな日常が存在している。これが著者の見てきた戦場の「本当」の姿であった。

戦場カメラマンが見てきた、戦場の「本当」

ジェノサイドの現実
ロシア軍に破壊された車の中(撮影:渡部陽一)

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要約公開日 2024.02.18
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