ヤングケアラーってなんだろう

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ヤングケアラーってなんだろう
出版社
出版日
2022年05月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

大人が担うようなケア責任を引き受けている「ヤングケアラー」。言葉自体は広く知られるようになったが、その実態についてはよく知らない、何が問題なのかわからないという人はまだまだ少なくないだろう。

本書は、調査にもとづいて「ヤングケアラーってなんだろう」を考えていく。本書に登場するヤングケアラーが担う「ケア」は、「お手伝い」とは異質である。家族のケアのために同年代と同じような生活をあきらめ、自分の望みをもつことすらできない子どもがいるのである。それは特別な事情のある少数の家庭だけだと思うかもしれない。ところが、厚生労働省のヤングケアラー実態調査によれば、家族の世話をしている中学2年生は17人に1人、全日制高校2年生は24人に1人にのぼる。クラスに1・2人はヤングケアラーがいてもおかしくない。

そんなヤングケアラーはなぜ生まれるのか。本書はその理由を社会構造の変化に問う。今の日本の福祉制度は高度経済成長期の経済的に余裕のある時期に、ケアの担い手が家庭にいることを前提に設計されている。共働きが一般的になった今でも、性別役割分業に支えられていた時期の男性のような働き方が多くの人に求められているのである。家庭や家族のことは後回しにされ、子どもや若者はそのしわ寄せに苦しんでいるとも考えられる。

ヤングケアラーを家庭の問題として見て見ぬふりすることはできない。社会全体に「家のこと」を計算に入れた働き方、ケアをする人をケアをするという視点の実現が求められているのである。

ライター画像
池田友美

著者

澁谷智子(しぶや ともこ)
1974年生まれ。成蹊大学文学部現代社会学科教授。専門は社会学・比較文化研究。著書に『ヤングケアラー――介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書)、『コーダの世界――手話の文化と声の文化』(医学書院)、編著に『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)、『女って大変。――働くことと生きることのワークライフバランス考』(医学書院)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    現在の日本の福祉制度は、経済的に余裕があった時代に、ケアを担う余力のある人が家庭にいるという前提のもとに作られている。働き手が減った現在では、家のことをやる人手も労力も足りなくなり、子どもや若者にまでそのしわ寄せがきている。
  • 要点
    2
    年齢にそぐわない責任を負って家族のケアを担っている「ヤングケアラー」は、自覚がないことも多く、周囲に相談できないまま、自分のことや進路のことをあきらめている場合がある。
  • 要点
    3
    ヤングケアラーの支援体制は整えられつつあるが、実態にそったさらなる取り組みが必要とされる。

要約

「ケアする人」へのケアが必要とされる時代へ

経済的余裕を背景に作られた制度の限界

現在に続くような教育の仕組みや福祉制度が作られたのは、戦後まもなくのことだ。その後、日本は高度経済成長期を迎える。この頃の日本は、お父さんが稼ぎ手、お母さんが専業主婦となって、子どもを2人程度産み育てるのが一般的で、人口に注目してみれば“働く人”の割合が高まる「人口ボーナス」期であった。経済的余裕を背景に、この時期の日本では「国民皆保険」や「国民皆年金」などの制度が整えられた。

ところが、1990年代からの日本は、総人口における“働く人”の割合が低い「人口オーナス」の時代に突入した。少子化が進み、数多くいた“働く人”は“高齢者”となったのである。“働く人”が減ったため大人は仕事に駆り出され、家族や家庭の領域は後回しになった。つまり、ケアを必要とする人は増えているのに、働く年齢層の人が家庭にかけられる人手も時間も減っているのである。

家庭には家のことを担う余力がある人がいることを前提に考えられてきたこれまでの制度も、「ケアする人」をどう支えるかという視点から見直しの必要性が認識されるようになってきた。このままではケアしている人まで共倒れになり、次世代も育たないという事態になるということが、現実的な危機感をもって迫ってきている。

見えてきた「ヤングケアラー」という問題
SurfUpVector/gettyimages

今の日本では、「家のこと」にかかる時間と手間を計算に入れずに、求められる「働き方」が決められている。働く大人を支えるために、裏方の家事や家族の世話を担う役割が、子どもや若い世代に担わされているのが「ヤングケアラー」の問題の一因といえるだろう。

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要約公開日 2024.01.14
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