「EVの普及は難しい」。著者はかつてそう結論付けていた。自動車メーカーがEVを発売しても売れ行きは鈍い。一方、トヨタ自動車のハイブリッド車ばかりが存在感を放っていた。
しかしコロナ禍を経て、世界のEVシフトは鮮明になっていく。2020年は欧州の「EV普及元年」となった。各国政府が景気をテコ入れするため、EVの購入補助を拡充した影響で、欧州主要国のEV販売台数は前年比の2倍になった。
中国も欧州に刺激され、あらゆる政策で普及策を講じ、年間500万台を超える巨大なEV市場となった。米国も2022年ごろから関連政策を推進している。
しかし、世界的なEVシフトの“一番”の目的は環境保護ではない。「産業育成と雇用の創出」だ。環境保護を前面に押し出しているのは、「競争をするなら社会正義がありそうな土俵で戦う」という意味合いが強い。
世界の自動車産業は、天下泰平の時を経て、大競争時代に突入した。その主役は「TBVT」と呼ばれる4社だ。それぞれ米国のテスラ、中国の比亜迪(BYD)、欧州のフォルクスワーゲン(VW)、日本のトヨタを指す。
企業規模や販売台数ではトヨタとVWの2社が圧倒的だ。しかし時代の風を受け、テスラとBYDはEVの販売台数を伸ばし、エンジン車の産業基盤を脅かしている。
既に企業の時価総額の面では、テスラはトヨタとVWを上回った。BYDもVWの時価総額に肩を並べる勢いだ。テスラとBYDの両社は、EV専業メーカーであることを強みに、EV専用の車体を開発、量産効果を追及していった。
既存の大手自動車メーカーにとって大一番となるのは、2025年以降の“第3世代”と呼ばれるEVだ。エンジンではなくソフトウェアが最重要部品となる中、開発体制を大幅に変えていくのは簡単ではない。
VWはドイツ最大の企業であり、産業の屋台骨だ。しかし2015年のディーゼルエンジン関連の不正発覚をきっかけに、EVシフトを鮮明にした。ただ、当初の想定どおりには販売が伸びていない。
課題はいくつもある中、特にソフトウェア開発に苦戦している。不具合も多く、2022年にはCEOの事実上の解任の一因になったほどだ。また利益率確保を急いで高級車からEV化を進めたため、「EVは金持ち用」というイメージが定着し、その払拭にも苦労している。ある政治家からは「フォルクスワーゲン(=国民車)から、プレミアムワーゲンに社名を変更しなければならなくなるだろう」と批判されている。
また自動運転技術の進展を見れば、自動車というモノを売るのではなく、移動というサービスを売る事業が拡大するのは間違いない。VWは移動サービスの子会社を設立し、挑戦を続けている。
「2035年に発売できる新車は排出ガスゼロ車のみとする」。欧州委員会が発表した規制案は大きな波紋を呼んだ。ハイブリッド車も認めないEVシフトを「無謀な企て」と評する見方と、「CO2削減計画に基づいたもの」とする見方に分かれた。とりわけ日本では前者の見方が強かった。
もちろん欧州の自動車業界もこの規制案に素直に従ったわけではない。しかし各論では議論をしながら、総論では対応を進め、EV販売も強化している。米国や中国が欧州の規制に追随すれば、これらの市場でも先行者利益を得ることができるからだ。
中国もEVシフトを強烈に進めている。EV購入補助政策とメーカーのコストダウンにより、一気に普及が進んでいる。電池の技術に関する特許でも中国企業は世界をリードしており、世界市場における中国メーカーのEVが台風の目になりつつある。
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