第一章では、『食の安全——その費用と便益』というタイトルで、食の安全とリスク、安全とお金という問題について述べられている。冒頭で著者は、「食の安全は、命に関わる問題だから、その安全を守るための費用に制限を加えるべきではないという考え方」を否定している。そもそも「安全」とは何か。この状態であれば安全であるというのは、その時代や、その人、その国によって異なっているという事実を認めることが、安全問題を考える上での第一歩だと著者は述べている。
また、安全はとても大事なものだとしている私たちが、実はやすやすと、またはしばしば、その安全を犠牲にしている事実もある。例えば、安全な食を求める私たちは、食材を集める段階から自分で作った方が安全だと多くの人が思っているにも関わらず、時間がないなどの理由から、できあいの食品を手にする。つまり、時間の節約のためにできあいの食品を食べることの危険は、しょうがないと受け入れているのだ。中国製ギョーザの危険性が問題になり、中国製の冷凍食品の需要が激減した事件のあとも、その需要が事件発生前の9割程度にすぐに戻った例もしかり。安全は極めて大事だというものの、現実にはそういう安全をしばしば犠牲にしているのである。
安全とは何らかの危害を避けた状態であるので、そもそも問題とする危害が何かをはっきりさせる必要があり、そのためには相対的な概念である「安全」の尺度、指標がなくてはならない。著者は、安全をリスクと置き換えて定義し、定量的にそのリスクを評価することを推奨している。リスクとは、あるエンドポイントの生起確率であるとも言える。発がんリスクとは、がんになることをエンドポイントにした確率を意味し、同様に、ある種の神経症状を起こす確率も同様に確率で表すことができる。しかし、人間にとって、どちらのリスクが大きいのか? ということは確率だけでは判断できない。
これに、重篤度を掛けたものを用いれば、リスク評価が可能になる。リスクをその現象の生起確率と重篤度で評価することで、何を下げようとしているのか、何を避けようとしているのかをはっきりさせることができるのだ。そして、一定の対策をとったときに、本当にリスクが削減されているのかをチェックすることが可能になる。
リスク管理においては、リスクを削減する対策をとる場合に、リスクトレードオフに対して考慮することが最も大事であると著者は述べている。ひとつのリスクを減らしたらそれで良いということはなく、同時にどこかで何か別のリスクを生じさせていることが多い。当初、削減を考えていたリスクよりも小さいものなら問題はないが、往々にしてそうではない。
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