ヒトの子どもが寝小便するわけ

サルを1万時間観察してわかった人間のナゾ
未読
ヒトの子どもが寝小便するわけ
ヒトの子どもが寝小便するわけ
サルを1万時間観察してわかった人間のナゾ
未読
ヒトの子どもが寝小便するわけ
出版社
築地書館
出版日
2012年07月24日
評点
総合
3.6
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

著者は、サルを観察しつづけて45年。1万時間以上も観察を続けた結果、「何だこの行動は!ヒトの行動と同じではないか!」とか「サルではこうなのに、なぜ、ヒトでは異なるんだ!」とか「サルではこうなのに、どうして他の哺乳類では見られないのか?」と考えることが多くなったという。本書はそうした考察のいくつかを取り上げたものである。表題の「ヒトの子どもが寝小便するわけ」をはじめ、「なぜヒトは大げさに痛がるのか」、「おとなしく順番待ちができる時とできない時の違い」、「家族の絆を強めるコツは何か」など、ヒトの行動や習性に、サルの研究を通して光を当てる。

動物研究者がヒトの行動や社会に対して言及することが少なくなっているが、著者はあえて、問題を投げかける意味で、それを行っている。ヒトだけが他の動物と違っているのではない、ヒトだって他の動物と共通の遺伝子をもって発達してきた動物なのだ、という強い思いが、その根底にある。

本書で紹介されるさまざまな事例を通して、ヒトとサルが近縁にあることを再確認させられ、なるほど、ヒトもまた動物である、と思わせられる。翻って、ヒトの社会の在り方を省みるきっかけを与えられる部分もある。「人の振り見て我が振り直せ」ではないが、サルを見てわかったことから人間らしい生き方についても考えさせられる良書だ。

著者

福田 史夫
1946年、北海道釧路市生まれ。横浜市立大学卒業。京都大学博士(理学)。動物社会・生態学・霊長類学専攻。学生のころからニホンザル、タイワンザルの調査を行ない、チンパンジー、キンシコウの調査に従事する。現在、慶應義塾大学、東京コミュニケーションアート専門学校の非常勤講師や西北大学の招聘教授を務めながら、知人や学生たちと丹沢山塊のニホンザルを含む野生動物の調査を行なっている。週に一度は丹沢を歩いている。おもな著書に、『箱根山のサル』(晶文社)、『アフリカの森の動物たち—タンガニーカ湖の動物誌』(人類文化社)、『野生動物発見!ガイド—週末の里山歩きで楽しむアニマルウォッチング』『頭骨コレクション――骨が語る動物の暮らし』(ともに築地書館)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    ヒトの子どもの排泄のしつけが難しい理由は、ヒトの祖先が、サルやチンパンジーのように移動・採食生活をしていたために、決まった巣をもたず、ところかまわず排泄する動物だったためではないか。
  • 要点
    2
    自然界で食べ物が潤沢にある状況では、サルが行儀よく交代で餌を食べる様子が観察される。しかし、餌が限られた餌場では、肉食動物のように餌をめぐって争う。ヒトが順番を乱す状況に陥るのも、似たように限りあるものを取り合う場合だといえる。

要約

【必読ポイント!】ヒトの子どもが寝小便するわけ

タヌキとサルの違い
Goodshoot/Goodshoot/Thinkstock

本書のタイトルでもある「ヒトの子どもが寝小便するわけ」は、早速第一章に登場する。

著者が長年、野生動物の調査を続けている宮ケ瀬の尾根を歩いているとき、学生が質問した。「サルの糞は橋のところで何カ所にもありましたが、タヌキはどうして一カ所にまとめてするんですか?」。著者は「サルは巣をもたないで、採食しながら移動して歩くからだよ! それは、シカもそうだよ」と答えた。

タヌキの糞がある場所はほぼ決まっているのに対して、サルやシカの糞はいつも決まった場所にあるわけではない。これは、タヌキは巣をもって家族生活をするが、サルやシカは巣をもたずに採食しながら移動するという生活様式の違いに起因している。

タヌキは、巣穴の中やその近くで糞をすると、自分たちの排泄物で衛生状態が悪化し、病気にもなりかねない。だから彼らは巣から離れた場所で用を足す。糞をする場所は決まっていて、家族以外のタヌキも利用することから、どうやら匂いによる仲間同士のコミュニケーションとしても、このいわゆる共用トイレが利用されていると著者は解説する。というわけで、巣をもつタヌキなどの動物は、特定の場所まで糞を我慢することができるのだ。

一方のサルやシカは、自分たちの行動域をもつが、巣をもたずに採食しながら移動して生活する。食べたいところで食べ、適当な気持ちの良い場所で休息し、寝る。その場にとどまるわけではないのでその場で排泄する。彼らにとってはどこでもトイレであるため、排泄は我慢するものではないし、我慢できない。

サルやシカと同様に、ウマ、ウシ、ゾウも採食しながら移動して暮らすので、歩きながらでも、食べながらでも糞をする。

ヒトも移動・採食の生活様式だった
kojihirano/iStock/Thinkstock

ヒトの子どもがお漏らしや寝小便をするのは、ヒトの祖先がサルやチンパンジーと同じように、採食しながら移動する生活をし、決まった巣をもたなかったことが理由ではないか、と著者は語る。ヒトが家をもつようになったのは、クロマニョン人のホモ・サピエンスが生まれてからのことなのだ。

事実、現在でも東南アジアやアフリカの熱帯地域では、赤ん坊にオムツをせず、好きなように排泄させている地域がある。日本でも、少し前までは道端で男性が小便をする姿を見かけることがあった。

もともとヒトは、サルと同じようにトイレなどなくても生活していけたのだ。ヒトが決まった巣をもって生活するようになってから、まだ十数万年であり、ヒトの子どもが寝小便やお漏らしをするのは、ヒトの祖先の生活様式の名残なのだ、と著者は述べる。

同種を殺してしまうという行動

子どもを殺してしまうサル

ある事例が発表されるまで、同種の仲間を死なせてしまうほどに攻撃する動物は、ヒトだけだという見方が有力だった。たとえば、イヌがけんかをすると、弱い方は劣位の姿勢や服従の行動を見せ、そうすると強い方はもうそれ以上攻撃をしなくなる。ただヒトだけが、謝り、服従の姿勢を見せても、攻撃をやめず、殺してしまうと考えられていた。

しかし、1962年、ハヌマンラングールというサルの群れで、子どもが皆殺しにされるというショッキングな事例が見られた。

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要約公開日 2014.10.24
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