本書のタイトルにもあたる「うっかりドーピング」とはなにか。
著者はこんな場面を紹介している。たとえば、あなたは有名大学の駅伝部のマネージャーで、部員のサポートをずっとやってきたとする。入学から毎日休まず、誰よりも頑張ってきた部員がやっと掴んだレギュラーの座。そして訪れた、最後の箱根駅伝の大会の前日、彼がちょっとした風邪をひいてしまった。これまで頑張ってきた成果を存分に発揮して欲しい。そう思って差し出した1粒の風邪薬。もしも、そこに禁止物質が入っていたら……。
そう、実はうっかりドーピングとは、こんなにも身近で実際に「あり得そう」な場面で起こってしまうのだ。市販の風邪薬のほとんどに、ドーピングに該当する禁止物質が含まれていることを知っているだろうか。選手やコーチならば、ドーピングに関する教育を受ける機会があったとしても、マネージャーやサポート役はほとんどその知識を得る機会がないのが日本の現状だ。このように、意図して競技能力を上げるために薬物を摂取するのではなく、風邪薬や喘息、花粉症などの薬を(必要な申請をせずに)服用し、意図せず禁止物質を摂取してしまったとしても、もちろん「失格」となってしまうのがうっかりドーピングの怖いところなのだ。
2020年の東京オリンピック招致において、日本はドーピング防止先進国としてその陽性率の低さをアピールしてきた。実際、2007〜2012年の日本の陽性事例報告から算出した陽性率は約0.13%であり、これは世界平均値(2003〜2011年データ)の1.39%と比較しても1/10以下と、格段に低い陽性率だ。
ところが、うっかりドーピングによる陽性事例は毎年報告され続けているのもまた実状だ。スポーツの成果は一朝一夕で出せるものではない。長い時間をかけて、文字通り血のにじむ努力を続けてきたアスリートに、つい「うっかり」なんてことでその成果が無効となってしまうことがないよう、正しいドーピングに関する知識の定着が必須なのだ。
ドーピングの種類には、①競技成績の向上のため意図的に行う「ドーピング」、本書で取り上げている②意図せず、風邪薬などから禁止物質を摂取してしまった「うっかりドーピング」の他にも、③優秀なライバルをおとしいれるために行う「パラ・ドーピング」の3種類がある。3番目に関しては、自分の成績を伸ばすのではなく、ライバルを失格にしてしまえという考え方だ。もし知らない間に自分のスペシャルドリンクに禁止物質が含まれる風邪薬などがこっそり入れられていたとしたらどうだろう。
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