「睡眠負債」とはなんだろうか。これはただの睡眠不足を意味する言葉ではない。睡眠不足が何日も続き、数日から数週間の単位でそれが慢性化した状態が睡眠負債だ。睡眠負債はさまざまな健康リスクにつながる。しかも、2~3日たっぷり眠っただけでは解消されない。また、あらかじめ寝だめしておいても、その後の睡眠負債の予防になることもない。
そもそも、1日に必要な睡眠時間はいったいどれくらいなのだろうか。一般的には7時間程度眠れば睡眠時間を確保できるとされるが、あくまでもそれは目安であり、個人差がある。自分に必要な睡眠時間はいったいどれくらいなのか。それを知るために有効なのが「睡眠日誌」である。
まずは2週間分の睡眠を日誌に記録する。そして休日と平日の睡眠時間を比較する。休日に平日よりも2時間以上多く眠っているのであれば、それは睡眠負債が溜まっている状態といえる。逆に平日と休日の睡眠時間に差が見られなければ、それが自分にとって必要な睡眠時間だと考えられる。
前述のとおり、休日に睡眠時間を増やしても睡眠負債が解消できるわけではない。1日10時間、明るいところで生活をし、残りの14時間を暗い部屋で横になるという実験では、被験者は実験初日には平均12時間と長く眠り、3週間後には8時間15分に落ち着いた。この8時間15分が本来被験者に必要とされる睡眠時間だと考えられる。もとの平均睡眠時間は7時間36分だったことを考えると、40分の睡眠負債を返すのに3週間かかったことになる。週末に寝だめをしたくらいでは、睡眠負債は解消されないのだ。
人は眠らないといつかは死ぬ。ラットを使った実験では2~4週間睡眠を奪われるとすべての個体が死んだ。人間の場合は、サンディエゴの高校生ランディ・ガードナーが1964年に行った実験が有名だ。ランディの断眠は11日間と世界記録を達成したが、その間に幻覚や記憶の欠落、さらに指や眼球のふるえなどの著しい不調に陥った。幸いランディに後遺症が残ることはなかったが、長期の断眠が脳に障害を与えた例もあり、こうした行為は非常に危険である。眠らないことで脳には様々な不具合が発生する。睡眠の役割の一つは、脳の疲労回復だといえる。
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