人々の行動様式に変化をもたらすような、不連続なイノベーションあるいは破壊的イノベーションと呼ばれる製品に直面すると、人は様々な反応をする。
例えば、あなたはいつ電気自動車を買うのだろうか。誰も持っていないときに買うのであれば、イノベーター(革新者)あるいはアーリー・アドプター(先駆者)と分類される。もし、電気自動車向けのサービスステーションが街中に展開されたら買うのであれば、アーリー・マジョリティー(現実的な購買者)だ。ほとんどの人が電気自動車に乗り換えた後に買う場合、レイト・マジョリティー(追随者)。永久に買わないのであればテクノロジーに関心を示さないラガード(無関心層)である。
電気自動車のような革新的な製品の市場は、イノベーターからラガードに至るテクノロジー・ライフサイクルを形成する。それぞれの顧客グループは似た考えを持ち、市場拡大のためには隣り合った顧客グループの間の溝を乗り越えなければならない。特に革新的な製品を好むアーリー・アドプターと実利を求めるアーリー・マジョリティーの間には最も大きな溝があり、それをキャズムと呼ぶ。その2つの顧客グループは一見似ているようで、全く異なる市場を構成していることが特徴である。次にキャズムに落ち込んで失敗した典型的な企業のストーリーを紹介しよう。
あるハイテク企業は一年目に、製品を市場に出しテクノロジー・マニアからの称賛を受け、順調な滑り出しをする。二年目はアーリー・アドプターの属性の顧客から受注を増やし、売上目標を達成、次年度の売上を300%増と見込むほどに勢いづく。三年目に営業部隊を拡大し、広告を開始、カスタマーサポート・チームも強化する。しかし、年度半ばに売上目標の未達が発覚し、営業費用の増加が重くのしかかる。
緊急ミーティングでは、営業部隊はプロダクトの問題を指摘、エンジニアはスケジュール通りの開発をしたと主張、カスタマーサポートも経営層もそれぞれ不満を表明する。結局、何も解決されず、第3四半期に突入し、売上未達が顕著となり、ベンチャーキャピタルからのプレッシャーからマーケティング担当のバイスプレジデントを解雇。資金が底を尽き不利な条件での資金調達を経て、会社救済の専門家を呼ぶも、業績は改善せず衰退が決定的となっていく。
つまり、初期市場の開拓で上昇気流に乗ったと感じても、メインストリーム市場の成功は約束されないのである。言い換えれば、新たな市場は連続的に現れる訳ではないということだ。キャズムに落ち込む危険を回避するためには、ハイテク・マーケティング・モデルの理解が不可欠だ。
テクノロジー・マニアは、テクノロジーの価値がわかる人達であり、信じられないような欠陥もひどいパフォーマンスも全て受け入れてしまう層である。例えば、HDTV(高精細テレビ)、デジタルカメラなどを1000ドルをはるかに超える額で購入するような人だ。つまり、テクノロジー・マニアは新製品を真っ先に手に入れることに執着する層と言える。
そのようなテクノロジー・マニアは新しいテクノロジーを普及させるための橋頭堡(きょうとうほ)となり、最初に支持を取り付けるべき相手と考えるべきだ。
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