多くのファシリテーターは、次のような壁にぶつかる。一つは、自分にとって新しい課題について、馴染みの薄いメンバーと議論することになり、うまくリードできないという壁。もう一つは、自分の意見を押しつけてしまうという壁である。こうした壁を乗り越え、合意を形成するには、「仕込み」と「さばき」という技術が必要になる。
この2つの技術が必要な理由は、人間の思考の処理能力には限界があるためだ。議論の場では、人の話を聴き理解すること、本来議論すべき内容を考えること、話していない人の状況を把握することなど、複数のことを同時処理しなくてはいけない。これではキャパシティーオーバーになってしまう。だからこそ、事前に入念な準備をして、あるべき議論の姿をイメージし、その場で出てくる発言を適切に位置づける「地図」を頭の中に持っておくこと、つまり「仕込み」が大事になる。さらに、実際の議論の場で直面するさまざまな課題に対処し、適切にメンバーの思考を導く「さばき」も同様に重要である。
そもそも、ビジネスにおける議論の最終目的は「行動を決定すること」である。決定プロセスに「議論」をかますのは、「決定内容の合理性を高める」、「決定プロセスへのメンバーの納得性を高める」という2つの効果を期待しているからだ。これを念頭に、議論を適切にリードするための「仕込み」として、ファシリテーターは次の3つを行わなくてはいけない。
①議論の出発点と到達点を明確にする
②参加者の状況を把握する
③議論すべき論点を広く洗い出し、絞り、深める
到達点が不明確だと、議論の中心テーマや、各論点に費やす時間配分、議論の各段階での方向性がつかめないという弊害が起きてしまう。一方、無理な出発点を定めてしまうと、参加者が議論のテーマに問題意識すら感じておらず、話の理解が進まず、反発を生む恐れがある。
では、正確な出発点と到達点を考え出すために何をすればいいのか? まずは合意形成の4つのステップを意識することだ。4つのステップとは、「議論の場の目的共有」→「アクションの理由と共有・合意」→「アクションの選択と合意」→「実行プラン・コミットの確認・共有」である。出発点と到達点を決めるときには、「この議論が終わった時点で、参加者と自分がどんな状態になっていればいいのか」、「いきなりこの話を初めて参加者に違和感はないか」の2つの問いを何度も自問するとよい。
ファシリテーションが人を相手にするものである以上、参加者を深く知ることが成否を決める。個人の属性をつかもうとするのではなく、議論のテーマに対しての「認識レベル」、テーマへの「意見・態度」を観察してから、「参加者の思考・行動の特徴」に目を配ることを薦めたい。
まず「認識レベル」は、「議論の前提(議論の目的や背景、重要性)」、「議論の中身(知識や経験、情報)」、「議論の場自体」への認識に細分化することができる。これらを「暗黙の了解」とせずに、メンバーの認識をそろえることがファシリテーターの大事な役割である。
次に、参加者の「意見・態度」を予測するときには、賛否の対象、理由、背景をおさえるとよい。
3,400冊以上の要約が楽しめる