ポジティブフィードバックとは、相手を成長させるためのコミュニケーションである。日常的によく行われるフィードバックは、うまくいかなかったことや改善すべき点にフォーカスを当てることが多い。一方、ポジティブフィードバックは、相手の行動・存在・結果を「承認」することが主眼となる。相手の可能性を信じ、フィードバックを受ける側が「大切に思われている」と素直に感じられるような環境を整えることも大切だ。
ポジティブフィードバックは仕事に対する幸福感やモチベーションのアップにつながり、「成果→ポジティブフィードバック→やりがい」という好循環が起こる。肯定的なカルチャーを醸成する意味でも、上司の仕事の9割はポジティブフィードバックにあるといっても過言ではない。
承認欲求が満たされないと劣等感や無力感が生まれる。そのような状態に陥らないように心理的安全性を確保する必要があり、そのための手法としてポジティブフィードバックを活用できる。相手のやる気、自信、人間関係、主体性も向上し、部下や組織にいい影響を与えられるだろう。
ポジティブフィードバックを通じて、会社や上司が期待していることを伝えることも可能だ。仕事への理解度がアップし、互いの考えが共有されることで信頼関係の構築につながる。
そしてなにより、ポジティブフィードバックは上司自身のためでもある。組織が成長すれば成果を上げやすくなり、前向きなコミュニケーションによって自分自身の幸福度も上がるからだ。
ポジティブフィードバックにおける承認には、「結果承認」「行為承認」「存在承認」「可能性承認」の4種類がある。
結果承認とは「今回の新規受注はあなたのおかげ。資料もわかりやすかったよ」というように、期待していた結果に対する前向きなフィードバックである。成功体験として認識させ、部下との絆を強くする。
行為承認は、結果にかかわらず日々のタスクやプロセスに対して行うものだ。結果が出る前の段階で承認されると、相手は「これでいいんだ」と自信を持つことができ、それが結果につながる。
存在承認は相手へのリスペクトを示す最も基本的な承認だ。「疲れているようだけど、大丈夫?」「何か手伝おうか?」といったちょっとした言語コミュニケーションだけでなく、笑顔やアイコンタクトもパフォーマンスを変えていく。
そして、未来の可能性を信じ、相手を応援するのが可能性承認である。改善点の指摘はいわゆる「ネガティブフィードバック」になるが、同時に期待していることをセットで伝えるようにする。「信じているからこそ、伝えている」という形であれば、受け取る側のやる気や自信につながっていくはずだ。
ポジティブフィードバックの柱となるのは、「強み・得意にフォーカス」する、「得意」を活かせる仕事を割り振る、実力プラス5%の「達成可能」な目標を設定する、という3点だ。これを基礎として、ポジティブフィードバックの効果をより高めていくには、いくつかのポイントがある。
たとえば、ポジティブフィードバックは「短いスパンで定期的に行う」。前向きなコミュニケーションを素直に受け止めてもらうためには、「やりすぎかも」と感じるぐらい繰り返し伝えることが大切である。週1回の会議で顔を合わせるなら、そのタイミングで必ずポジティブフィードバックを行う時間をつくるのでもよい。
また、行動に対しては「その場ですぐ」フィードバックしよう。時間が経つと行動した側も忘れてしまい、効果が薄れてしまう。移動時間中、歩きながらでもいい。そのようなシチュエーションのほうが、部下に対して言葉や思いが伝わりやすい場合もある。
伝え方としては、「具体的に」「なぜ」良かったのかを明確にすることも大切だ。
たとえば、部下のプレゼンが成功して無事クライアントとの契約を獲得できたとしよう。このとき部下にかける言葉として、「大切な顧客だったから、成約できて良かった。ありがとう」と言うか、「今回のプレゼン資料は、メッセージがわかりやすかった。少し緊張していたみたいだけど、わかりやすく話せていた。今度は今日の成功体験をベースにもっとリラックスして臨むといいかもね」と伝えるか、どちらが適切だろうか。後者のほうが、評価内容が明確であり、自分の強みの理解にもつながるはずだ。
たとえ些細なことであっても、良かった点はできる限り伝えるべきだ。相手は自分の良いところに気づいていないこともあるし、あなたにとっては小さなことでも、当人には大きな課題である可能性もある。
ポジティブフィードバックにおいて、肯定的な承認と改善点のメッセージの割合は8対2を意識するといい。ノースカロライナ大学のフレデリックソン博士と、世界中で「ハイパフォーマンスチーム」のコンサルティングをしている心理学者のロサダ博士による心理学の研究では、フィードバックを行う際、肯定的な内容が8割前後になるとパフォーマンスが高くなるという結果が出ている。改善点を指摘する際も前向きに伝えるようにするといいだろう。
くわえて、ネガティブなメッセージは必ずポジティブなものでサンドイッチすれば、ネガティブな印象を和らげられる。逆に、フィードバックの最初と最後ではネガティブな言葉を使うと、「打ち消し効果」によってパフォーマンスも低下してしまうので要注意だ。
改善点を指摘する際にやってしまいがちなのは、過去の事象にフォーカスを当てすぎることだ。過去を振り返ることは大切だが、より重要なのは将来をいかに良くしていくかという視点である。
また、「どう思う?」と問いを投げかけることも、相手の可能性の承認になる。「こうやって」とただ命じるより、目的や理由を伝えて「あなたはどう思う?」と相手を信頼しながら尋ねることで、建設的な解決策へと導く。
もし納得のいく回答が返ってこない場合は、あなたにとっては当たり前であっても、相手が改善の背景まで正しく理解できていないのかもしれない。「こういう理由があるから、このタスクが大事なんだ」などと、相手が新たな気づきを得られるようにしてから、「どう思う?」と問いかければ、新しい発想につなげていけるだろう。
組織運営という観点でもポジティブフィードバックの考え方は役に立つ。チーム内でポジティブフィードバックが行われる環境を構築できれば、オープンなカルチャーが育ち、お互いの強みも理解できる。特に欧州のマルチナショナル企業では、組織のメンバー同士による「360度フィードバック」を取り入れているところが多い。これは、上司だけでなく部下や同僚、取引先などあらゆる立場の人からフィードバックをもらう仕組みだ。
360度フィードバックを定期的に行うと「お互いにフィードバックをして良いのだ」という共通認識が生まれ、相談し合ったり、意見を求めたりしやすくなる。また、上司から言われると納得できないことでも、違う立場からだと素直に聞き入れられるということもあるだろう。アメリカの研究によれば、チーム内の様々な方向からのポジティブフィードバックが頻繁に行われている組織では、業績や顧客満足度が高く、離職率が低いという証明もされている。
360度フィードバックは、人事評価を目的として導入されることも多い。ただ最近は、個々の成長を促す人材管理の手法として注目されており、よりカジュアルに活用する例が増えている。具体的な運用方法を見ていこう。
実施回数は年1回から多いところで4回程度、人事担当者の主導で行われる。人事評価面談の日が決まったら、フィードバックしてもらいたい人を社員に選んでもらう。フィードバックの内容として、会社の価値観や戦略に基づいた設問が用意されるケースもある。人事担当者は各人が作成したフィードバックを取りまとめ、上司と社員とで1対1の人事評価面談を行う。自己評価と他者からのフィードバックを比べて、強みの確認や課題の改善法、将来的なキャリアパスなどを話し合う。
ここで大切なのは、フィードバックを集めること自体ではなく、それをもとにした肯定的なディスカッションである。しかもできれば、上司だけでなく、フィードバックをくれた同僚などにも直接話を聞けるとよい。そうしてお互いの理解を深めながら、360度フィードバックを「スタート」として、個人の成長につなげていくのだ。
なお、360度フィードバックでは部下からのフィードバックの機会も発生する。上下関係があっても互いの気持ちを思いやりながら、フィードバックの言葉に対して真摯に向き合うことが大切である。たとえネガティブフィードバックをもらうことがあっても、それは上司に「もっと改善してほしい」という可能性承認であり、期待の裏返しと言える。上司が考えるべきなのは、部下の期待に対してどう応えられるかという点に尽きる。
上司からフィードバックをもらいにくいと感じる場合は「おねだり」をしてみよう。難しく考える必要はなく、「提出した資料についてどう思われましたか?」「この分析についてご意見をください」などと、直接問いかければいい。具体的に聞くことや隙間時間を狙うことなどもポイントだ。
部下のほうから積極的にポジティブフィードバックをおねだりすることは、単純接触頻度を高めることになるので、上司の側でもプレゼンスが上がる。その結果、自らの仕事に対する姿勢を上司に知ってもらうことができ、成長につながるような活躍の場も回ってきやすくなるはずだ。「週に5分」でも効果のあるこの方法をぜひ実行してみよう。
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