日本企業には「現場」と呼ばれる場所が存在する。そこには日本企業がもつ強みや弱み、日本人の特異性やユニークさが潜んでいる。
現場は戦略の実行を担い、夢を形にする「価値創造主体」であり、「業務遂行主体」でもある。ルーティン作業に加え、本来であれば起きてはいけない異常にも対処する。その際に生まれる「刹那的な達成感」は決して悪いものではないが、その達成感に溺れると、日常に追われ、いつの間にか現状を維持することが現場の主たる任務になってしまう。これは大きなリスクのひとつである。
現場にはさらに「人材育成主体」という側面もある。人という観点から見ると現場は極めて同質的で隔絶的だ。仲間との連帯感は現場の強みだが、外部と隔絶された「小宇宙」は、小さな関係性に拘泥する「現場モンロー主義」のリスクもはらむ。
そのような現場のマネジメントは、戦略を練るよりもはるかに難易度が高いという点を認識すべきである。
同一業界で類似の価値を生み出そうとすれば、どの現場も似たような機能、業務を遂行することになる。そうした中でパフォーマンスに違いが出るのは、機能や業務が異なるからではなく、組織能力が違うからだ。組織能力はそれぞれの企業のブラックボックスなので、解明して一般化・体系化するのは難しいが、人の集積である現場が保有する組織能力の鍵は、実行力にある。
戦略は実行されてこそ意味を持つ。地に足のついていない戦略の成功確率は低い。現場にこそ未来につながる戦略の芽が潜んでいるので、その芽にいち早く気づき、自分たちが進むべき方向性を決めるのが、戦略策定の正しい態度である。
現場力は、以下の3つのステージを経てレベルアップしていく。
①保つ能力・・・確実に業務を遂行し、決められた標準価値を安定的に生み出す能力。
②よりよくする能力・・・現場力を競争上の優位性にまで高めるため、日々改善する能力。現場が微差にこだわり、問題を「処理」するのではなく、根っこから「解決」する姿勢を取る。
③新しいものを生み出す能力・・・現場の声に着目し、その質を高めていく能力。現場にはイノベーションの原石が埋もれている。規律が守れる現場なら、現場の権限や裁量権を高めることで、創造性を喚起できる。
「生きている現場」では、現場だからこそ思いつく知恵や創意工夫が連続的に創出される。そうした個々人の暗黙知は「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」というプロセスを経て組織内で共有されるようになる。非凡な現場には、この「知識創造スパイラル」が存在する。
平凡な現場では、コア能力は「保つ能力」にあるが、非凡な現場では「よりよくする能力」「新しいものを生み出す力」をコア能力化することに成功している。
非凡な現場を誇る「デンソー」は、工場長がリードする全員参加の日常的な改善活動を続けることで「よりよくする能力」をすでに確立しており、それを凌駕する「新しいものを生み出す力」を磨いている。そのキーワードは「1/N」。
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