著者はかつて、芸人さんにフリートークをしてもらう『フリートーカー・ジャック!』というラジオ番組を企画したことがある。メディアで生き残っている人はトークがうまい。だが、売れなければトークを磨く機会がないというジレンマがある。だから、まだ売れていない人にトークを練習してもらう番組を目指したのだ。
集められたのは芸歴10年前後の芸人さん。劇場ではフリートークでも笑いをとっている人たちだが、「1人で5分話してください」と依頼しても意外にうまくできない。
劇場で笑いをとれている人でもラジオのフリートークが上手くいかない理由は、いくつかある。そもそも、劇場にいる人は芸人のファンであり、お金を払って見にきているのだから、途中で席を立って出ていくことはない。お客さんの反応を前提にすれば、ある程度アドリブでも時間を持たせることができる。一方、ラジオでは出演者のことを知らない人が聞いていることを前提に、いかに聞き続けてもらうかを考えなければならない。しかも、目の前に反応してくれる人がいない。
ふだんのライブでしゃべりに自信を持っている人は、「フリートーク」を「自由なトーク」だと考えて、アドリブでできると考えることが多い。しかし、たいていの場合、番組ではうまくいかない。ある程度の準備をしているからこそ、フリーに話すことができるのだ。
エピソードトークと聞くと、ドラマチックかつボリュームのある内容を思い浮かべがちだ。ドラマチックな人生を送ってきたわけではない人には語るべきエピソードはないと考えるかもしれないが、それはまったくの誤解だ。変わった体験をしたからといって、面白いエピソードが生まれるとは限らない。エピソードを持っていても、本人がそれに気づいていないだけという場合が多いのだ。
『フリートーカー・ジャック!』には、無名だった頃のオードリーの若林正恭さんがやってきたことがある。出演回数を重ねて手持ちの話がなくなった若林さんは、トークのネタを探して高尾山に登ったのだという。しかし、何も起こらなかった。
その話を聞いた著者は、「むかし伊集院さんも同じことを言ってたよ」と笑って答えた。わざわざエピソードを作りに行っても、普通の人の日常にはドラマチックな出来事はそうそう起こらない。面白いトークを聞くと、そこにすごいエピソードがあったように感じてしまうだけなのだ。聞いている相手にそう思われることができるのが、うまいトークだということだ。
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