著者
池谷裕二(いけがや ゆうじ)
1970年、静岡県藤枝市生まれ。薬学博士。現在、東京大学薬学部教授。脳研究者。海馬の研究を通じ、脳の健康や老化について探究を続ける。文部科学大臣表彰(若手科学者賞)、日本学術振興会賞、日本学士院学術奨励賞などを受賞。「ERATO 池谷脳AI融合プロジェクト」の研究総括も務める。本書が完結編となる高校生への脳講義シリーズは、他に『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』(ともに朝日出版社/講談社ブルーバックス)がある。その他の著書に『記憶力を強くする』(講談社ブルーバックス)、『脳には妙なクセがある』(扶桑社/新潮文庫)、『パパは脳科学者』(クレヨンハウス/扶桑社新書)など、共著に『海馬』(朝日出版社/新潮文庫)、『脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか』(講談社)などがある。
本書の要点
- 要点
1
「なぜ意識があるか」は神経科学最大の謎の一つだが、「夢がもとになって現実の意識が生まれた」という仮説は文字通り夢のある仮説である。 - 要点
2
ヒトの脳にとって効率的な学習方法は「困難学習」「地形学習」「交互学習」の3つである。これらの性質から、苦労したほうが学習効果は高いことがわかる。 - 要点
3
私たちは、脳内の信号に注釈(アノテーション)をつけることで、世界を再構成する。その繰り返しの先に「世界」、そして「私」が生まれていく。
要約
脳は夢と現実を行き来する
夢を観察する
S-S-S/gettyimages
夢と現実の違いは、一見すると自明に映る。しかし、よくよく考えてみると、いま見ているものが「夢ではない」と証明するのはそれほど簡単ではない。
では、他人の夢ならどうか。その人が夢を見ているかどうかを判断するためには、寝ている人の脳の活動を記録すればいい。現在の科学の力をもってすれば、見ている夢の内容はある程度はわかる。
さらに、ネズミを使ったある実験では、より詳細な夢の内容を当てたと報告されている。海馬という脳部位には、「場所細胞」という神経細胞がある。読んで字のごとく、場所に応じて発火する細胞のことだ。実験ではこれを利用した。ネズミの脳にできるだけたくさんの電極を刺して、海馬細胞の発火を記録する。そして、ネズミに広いスペースを自由に探索させ、場所細胞の発火を観察したのだ。ネズミの場所細胞の発火さえ記録しておけば、夢のなかでどこにいるのかが記録できるようになるというわけである。
この実験ではさらに興味深いことが判明する。
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要約公開日 2024.06.08
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