著者は会社員時代、地元の住民や見学に来られた方に対し、工場の環境対策について説明する仕事をしていた。当時のエピソードを1つ紹介しよう。
住民を対象に、工場に新しく導入する設備の説明会を開催したときのこと。「こちらの工場では大規模な太陽光発電を導入して、温暖化対策をしています」と説明すると、参加者たちは「ふーん」といった反応だった。一通り説明を終えると、ひとりの男性が質問してきた。「環境対策の話はええんやけど、工場の屋上から出ている白い煙、あれって何? 何か有害なものとか含まれていないの?」
著者ははっとした。住民が聞きたかったのは、「工場がいかに環境対策をしているか」ではなく「公害や健康への影響」「工場の安全対策」だ。それなのに、自分はこれまで「伝えたいこと」だけを伝え、「相手の聞きたいこと」を伝えられていなかった。
それ以来、誰かに何かを説明するシーンでは、「自分が言いたいこと」ではなく「相手の聞きたいこと」を考え、確認し、伝えるようになった。
説明する際、相手の頭の中に具体的なイメージが浮かんでいなかったり、相手の抱いたイメージが自分のイメージとズレていたりしたら、勘違いや行き違いが起こりかねない。
著者がかつて中国で仕事をしていたとき、部下に配管の改造工事を指示し、「なぜ改造するのか」「どう改造するのか」などを説明した。だが、数カ月後に「配管工事が完了した」と報告を受けて現場に向かったところ、工事のあとに開けておくべきバルブが閉まっていたという。
ここで著者は、部下と「完了」というゴールのイメージを共有できていなかったことに気づいた。著者にとっての「完了」は「新しい配管がつながってバルブを開けた状態になっていること」だったが、部下にとっては「新しい配管がつながること」だったのだ。
改造工事の説明をしたあと、部下に「何をしたらいいか、あなたの言葉で説明してみて」と言って確認しておけば、このような行き違いは発生しなかっただろう。
あなたの説明を、相手の頭の中でくっきりイメージさせると、このような勘違いや行き違いを防ぐことができる。ここで使えるフレーズは3つある。
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