「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?

認知科学が教えるコミュニケーションの本質と解決策
未読
「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?
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「何回説明しても伝わらない」はなぜ起こるのか?
出版社
出版日
2024年05月13日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「何回説明しても伝わらない」という経験は誰にでもあるはずだ。どうしてこんなにわかりやすく説明したのに伝わらないんだろうと思ったときに、私たちは自分の「伝え方」を見直そうとする。そこには、「ちゃんと話せばわかり合える」という前提がある。

ところが、本書はそもそも「話せばわかる」は幻想ではないかと指摘する。コミュニケーションをとるとき、人は自分の頭の中にある「当たり前」を用いて解釈する。人それぞれ異なる「当たり前」を通して解釈しているからこそ、その「当たり前」が乗り越えられなかったとき、「伝えたいことが伝わらない」という事態が起こる。

こうしたコミュニケーションの困りごとを、本書の著者である今井むつみ教授は、認知科学と心理学の視点から考え、解決策を提示する。コミュニケーションは様々な認知の力に支えられている。だからこそ、人間の認知の特徴を知ることが、「伝わらない」を乗り越えて、いいコミュニケーションをとるために必要だというのだ。

本書を読むと、私たちが普段いかに世界を都合よく解釈しているかがわかる。見ていないものを「見た」と記憶してしまったり、やったことをすっかり忘れていたり、聞きたくない話は耳に入らなかったりと、これでは「何回説明しても伝わらない」のが当然だと思えてくるほどだ。

それでもなお、伝えることを諦めないためにはどうしたらよいか。本書を片手に「心の読み方」を考えることが、その第一歩になるかもしれない。

ライター画像
池田友美

著者

今井むつみ(いまい むつみ)
慶應義塾大学環境情報学部教授。
1989年慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。94年ノースウェスタン大学心理学部Ph.D.取得。専門は認知科学、言語心理学、発達心理学。主な著書に『ことばと思考』『学びとは何か』『英語独習法』(岩波新書)、『ことばの発達の謎を解く』(ちくまプリマー新書)など。共著に『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書、「新書大賞2024」大賞受賞)、『言葉をおぼえるしくみ』(ちくま学芸文庫)、『算数文章題が解けない子どもたち』(岩波書店)などがある。国際認知科学会(Cognitive Science Society)、日本認知科学会フェロー。

本書の要点

  • 要点
    1
    「話せばわかる」とよく言われるが、それぞれの人が自分独自の「知識や思考の枠組み(スキーマ)」を持っている以上、そのスキーマに沿って独自に解釈されている可能性は否定できない。
  • 要点
    2
    私たちには先入観や思いこみを生み出す「認知バイアス」と呼ばれる認知の傾向がある。偏ったものの見方で判断を下していると、異なる立場からの情報や論理破綻の指摘があっても、判断が覆らない場合がある。
  • 要点
    3
    真に相手の立場に立って物事を伝えるためには、「心の理論」と「メタ認知」という視点が重要となる。

要約

「話せばわかる」は「幻想」かもしれない

「人と人は、話せばわかり合える」ものなのか?
Edwin Tan/gettyimages

「話せばわかる」ということを、多くの人は当たり前のことだと思っている。理解できないけれど興味があることがあったら詳しい人に説明してもらおうとするし、揉め事が起こればまずは話し合って解決しようとする。もちろん、話す言語が違ったり、世代が大きく離れていたりすればわかり合うのは難しくなるし、高度な専門知識を要する話などはいくら説明を聞いても理解できないかもしれない。

こうした例外はあれど、同僚や家族、友人などの近しい人と、日常的な会話をする場であれば、「話せばわかる」「話すことで、その前より理解を深められる」という前提のもとに動いているはずだ。しかし、何かが伝わらない場合、説明や表現の仕方を改善すれば、本当に伝わるようになるのだろうか。

日常には「伝わらない」シチュエーションが溢れている。わかりやすく説明しているのに一向に相手に伝わらない、過不足なく説明したはずなのに異なるニュアンスで伝わっている、それどころか、思いがけないトラブルに発展していくことさえある。

相手に何かを伝えようとするとき、自分が思い描いていることをそのまま相手の脳にインプットできるわけではない。言語はつねに受け取り手によって解釈され、そうして初めて意味のあることとして伝わる。思いと解釈が一致しているかは、話し手にも聞き手にもわからないのだ。

「わかった」という感覚がいつも正しいとは限らない

言葉を発している人と受け取っている人とでは、「知識の枠組み」も違えば「思考の枠組み」も異なる。たとえば、「ネコ」という名詞を聞いたときでさえ、思い浮かべるものは別物である可能性が高い。こうした「知識や思考の枠組み」のことを、認知心理学では「スキーマ」と呼ぶ。

スキーマとは、相手の言葉を理解する際、何かを考える際に裏で働いている基本的な「システム」のことである。外国語を例にとるとわかりやすいが、ある単語が持つ意味の体系は言語によって異なる。英単語の「wear」は日本語の「着る」とまったく同じ意味なわけではない。「wear」は衣服だけでなく、メガネや化粧などにも用いられ、「身につけている状態」を表すことができる。しかし、日本語の「着る」とは異なり、「着る動作」には「wear」を使うことはできない。したがって、日本語の文を書いて、1語ずつ英語に置き換えるだけでは、自然な文を作ることはできない。つまり、外国語を学習する際には、そのスキーマごと学ばなければ、自然に使いこなすことはできないのだ。

人間はあらゆる物事をスキーマを用いてとらえている。相手が「わかった!」という態度を示していたとしても、相手のスキーマに沿って独自に解釈されている可能性は否定できない。また、自分が「わかった!」と思ったときにも、相手の意図したように理解できていない可能性があることを忘れてはならない。

【必読ポイント!】 「話してもわからない」「言っても伝わらない」とき、いったい何が起きているのか?

「理解」についての2つの勘違い
andreswd/gettyimages

ここで、「言っても伝わらない」を生み出す2つの勘違いを紹介しよう。

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要約公開日 2024.10.02
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