舞姫

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評点
総合
4.2
明瞭性
4.0
革新性
5.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

明治23年(1890年)1月に発表された森鴎外の代表作『舞姫』は、陸軍軍医としてドイツに留学していた鴎外の経験がもとになっているといわれる。発表以来多くの議論が交わされ、国家と個人の対立、そして近代的自我の目覚めと挫折が主要なテーマであると目されている。

明治維新で封建制度は解体され、日本は急速な近代化のさなかにあった。明治期の青年は、封建時代から引き継がれた家や国家への忠義を重んじる価値観と、個人の自由や意思を重視する西洋的な価値観の間で揺れ動くことになる。こうして注目を集めるようになったのが、近代的自我という概念である。これは自己の内面に目を向け、自分の意思や価値観に基づいて行動することを重視する自我を指す。この近代的自我を獲得せんと葛藤する青年を文学の主題として描き出したという意味で、『舞姫』は画期的な作品であった。

本作の主人公である太田豊太郎は、将来を嘱望されドイツに国費留学した青年であるが、西洋の空気に触れ、それまでの受動的で機械的な生き方に疑問を抱くようになる。女遊びを噂され、仕事を失い、学費も打ち切られた豊太郎は、踊り子エリスと恋に落ち、貧しくも幸せな生活を営み始める。自己の意思を重視する生き方を始め、自由を手に入れたと誇る豊太郎であったが、結局は個人の生活を捨て、家や国家の期待に応える道へと戻っていく。

生き方に悩む様には現代人にも共感できるところが多いが、文語で書かれた原文は読みづらく感じられることだろう。現代語でまとめた本要約で物語の概要をつかんでから、原典にあたってみてはいかがだろうか。

ライター画像
池田友美

著者

森鴎外(もり おうがい)
本名・森林太郎。石見国鹿足郡津和野町(現在の島根県)生まれ。東大医学部卒業後、陸軍軍医になり、陸軍省派遣留学生として4年間ドイツへ留学。帰国後、訳詩編「於母影」、小説としては第一作となる『舞姫』などを発表し、文筆活動を開始。軍人としては軍医総監へと昇進する一方で、多数の小説・随想を執筆する。主な作品に『青年』『山椒大夫』『高瀬舟』など。

本書の要点

  • 要点
    1
    将来を嘱望されドイツに国費留学していた太田豊太郎は、現地で踊り子エリスと恋に落ち、出世の道からは外れたが、貧しくも幸せな生活を営むようになる。
  • 要点
    2
    エリスが妊娠した頃、かつての学友の計らいで、豊太郎は名誉回復の機会を得て日本への帰国が叶うことになる。
  • 要点
    3
    豊太郎はエリスをドイツに残して帰路につき、帰国の船内で自分に残った恨みを回顧する。

要約

帰路

恨み

石炭はもう積み終えてしまった。今宵は他の乗客はみな陸の客館に泊っていて、船に残っているのは私一人である。

5年前、平生の希望がかなって、洋行の官命を受け、このサイゴンの港まで来た頃は、見聞きするものすべてが新しく、毎日のように紀行文を書いたものだ。こんどの旅では、日記用にと出発前に購入した冊子は白紙のままである。

ドイツから東へ帰ろうとしている現在の私は、西に航ろうとしていた頃の私ではない。学問には飽き足らぬところが多いが、浮世のつらさを知ってしまった。人の心は頼みがたく、自分の心さえも変わりやすい。だが、すぐに移ろう自らの心を筆に写して人に見せられないから日記が書けないというわけではない。これには他の理由がある。

イタリアの港を出てから20日あまり。乗り合わせた船客と旅の退屈を慰め合うのが航海のならわしであるが、体調不良を理由に船室にこもっているのは、恨みに頭を悩ましているためだ。こればかりは私の心に深く刻みつけられ、簡単に晴らすことができない。

周囲に人のない今宵、そのあらましを綴ってみることにしよう。

近代的自我の目覚め

神童
ilbusca/gettyimages

幼い頃から厳しい家庭教育を受けていた。父を早くに亡くしたが、学業では太田豊太郎の名はいつも一級のはじめに記されていた。19歳で学士の称号を受け、大学開校以来の名誉であると言われ、某省に出仕してからは故郷の母を東京に呼び寄せ、3年ほど楽しい日々を過ごした。

官長からの覚えもめでたく、洋行の命を受け、功名と興家の機会に心が沸き立ち、50を超えた母との別れもいとわず、ベルリンの都にやってきた。

このヨーロッパの大都市にはあまたの景物がひしめきあい、ひとつひとつじっくり見る暇もないほどである。しかし、無意味な美観に心惑わされてはならぬと誓いを立てていた私は、迫りくる刺激を遮っていられた。事前に許可を得ていたとおり、役所仕事の暇には大学で政治学の講義を受講した。

器械的な人間

こうして3年ほどは夢のように過ぎてしまった。私はそれまで他者からの賞賛を糧に、勉学に仕事にと励んできたが、自分が消極的で器械的な人間であることに気づかされたのである。

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要約公開日 2024.09.28
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