「推し」という言葉は昨今さまざまな対象に使われるようになっている。アイドル、歌手、俳優、声優、VTuber、あるいはアニメ、本、漫画、映画、ゲームなどのコンテンツそのものが「推し」の場合もある。スポーツ、釣り、チェスなどの趣味や、誰かに広めたい商品や習慣も含まれるかもしれない。
これまでも「ファン」や「贔屓」といった言葉はあったが、「推し」という言葉には「推薦したい」、つまりは「他の誰かに薦めたい」という感情が入っていることが特徴だ。ただその対象を好きなだけでなく、他人に紹介したい、魅力を言葉にしてその素晴らしさを分析したいという欲望を持つことが「推し」の条件であろう。
「推し」について語る技術は、ファンレターにもSNSにも応用できるし、ただ友達に語りたい人にももちろん役立つ。文章を書くには技術が必要だ。逆にいえば、技術さえ理解すれば、いい感想やいい文章は書けるようになる。
推しを語るときに最も大切なのは、「自分だけの感情」だ。誰かがつくった言葉や広めた感情ではなく、自分だけが感じていることを伝えるのが何より大切だ。それを伝えることこそが、推しを語る意味になる。
世の中にはよく使われる「ありきたりな言葉」があふれている。「泣ける」「やばい」「考えさせられた」などがそれだ。こうした言葉を使うと、そこで思考停止してしまう。ありきたりな「それっぽい表現」を使わずに、自分だけの感情に向き合うことでオリジナルな表現ができあがる。
ただし、自分の感情を言葉にするだけでは、他人に伝えるための文章としては不十分だ。文章の核が「自分だけの感情」だとすれば、その核を包むのが「文章の工夫」だ。この工夫をどれだけできたかが他人への伝わりやすさを決めることになる。
文章の核である感想の言語化がうまくできないとき、読解力や観察力が足りないせいだと考える人が多い。しかし、感想を書くうえで本当に大切なのは「妄想力」だ。
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