「裾野広ければ頂き高し」。これは名作『あしたのジョー』を生んだちばてつや氏の言葉だ。漫画家がたくさんいて、多様な作品が生まれる環境になるほど、面白い作品ができて業界が発展するという意味である。これは日本のマンガ発展の真理だ。
2010年頃、書店で漫画単行本を発行する漫画家は約6000人、単行本のアイテム数は1万2000冊強あった。プロだけでなく漫画家志望者も加えると、この裾野はさらに広いといえる。
しかも、以降、漫画家や作品の数は拡大の一途をたどっている。その要因は次の3つだ。1つ目は、スマホの普及で電子書籍プラットフォームや漫画アプリから生まれたマンガの数が増えていること。2つ目は、出版社を介さない、個人による漫画販売が増えたこと。そして3つ目は、ウェブトゥーンと呼ばれる縦読みのマンガを制作する、ウェブトゥーンスタジオ設立ブームが起きたことである。
著者の肌感覚では、年間1万5000~2万ほどの作品が生み出されている。日本の映画が年間で676作品、テレビアニメ制作本数が300前後であることと比べると、かなりの多さといえる。
漫画業界では、ヒット作品が出る確率は1000作に3作ほどといわれる。生み出される作品が多いほど、わずかな確率だが、メガヒットが生まれる可能性が上がるのだ。
なぜ日本でこれほど多くのマンガを生み出せたのか。それは、週刊漫画雑誌の存在が大きく寄与している。今から60年以上前に小学館の週刊少年サンデー、講談社の週刊少年マガジンが同時創刊し、のちに集英社の週刊少年ジャンプ、秋田書店の週刊少年チャンピオンなどが創刊となり、これらが多種多様な作品づくりの基盤となった。
週刊漫画誌はユニークなものだ。1誌あたり約20作品が掲載され、1話20ページほどのマンガが原則月に4~5本載ることになる。つまり、一人の作家と一人の編集者が、読者の満足するボリュームの作品を毎週描いて出し続けるのだ。これは世界に類を見ないハイペースでの創作であり、日本のマンガの裾野を広げてきた。
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